9agreeable No.64 October 2022/10一般財団法人残留農薬研究所 小坂 忠司 前シリーズまでは、有機リン剤のパラチオン、マラチオン、有機塩素系殺虫剤のγ-BHC、DDT、PCPにおいて抗体価抑制の報告を紹介し、次に有機塩素系殺虫剤メトキシクロルをマウスに反復投与した結果、免疫毒性作用として抗体価の低下を示す事を報告しました。 今回は、皮膚アレルギー性反応の皮膚感作性について記載致します。皮膚感作性とは、単一の物質または混合物が皮膚に接触した後に起こるアレルギー反応であり、皮膚感作性を有する物質に繰り返し接触することにより、皮膚に局所的な炎症が生じる反応です。近年、労働現場および一般消費者が手にする製品においても「皮膚アレルギー反応」が発生するなど、社会的な関心の高い疾患の一つになっており、化学物質の皮膚感作性を正確に評価することは重要であると考えられます。 臨床的には職業性皮膚疾患のアレルギー性接触皮膚炎に区分され、報告例としては、ニッケル、クロムなどの金属類、アクリル樹脂、ゴム製品(ラテックス)、ヘアカラー剤(パラフェニレンジアミン)などが挙げられます。皮膚感作性は直接重大な病気に関わる疾患ではないものの、症状の重症化ないし苦痛を回避するため職場の配置転換や転職を余儀なくされる場合があり、社会生活にも大きな影響を与える事が懸念点となります。 薬剤のアレルギー反応の検査としては皮膚感作性試験があり、モルモットを用いた皮膚感作性試験(マキシマイゼーション法やビューラー法)が知られており、最近は動物愛護の問題から動物実験代替法が提案され、その中でLLNA試験(Local Lymph Node Assay、マウス局所リンパ節試験)が使用されています。 図1にLLNA試験の概要を示します。試験法は、マウスの両耳介に被験物質を1日1回、3日間塗布し、最終塗布3日後に3H(トリチウム:放射性物質)標識したチミジン(DNA構成要素のヌクレオチド)を尾静脈内投与して、図1 LLNA試験(マウス局所リンパ節増殖性試験)概要図2 木材防腐剤CCAおよび呼吸器感作性物質TMAのLLNA試験成績耳介リンパ節を摘出した後に放射能活性を測定します。LLNA試験は感作時のTリンパ球の増殖反応を確認するために、細胞の増殖活性をトリチウム標識チミジンのDNAへの取り込みで評価する試験であり、被験物質投与群と対照群の放射能活性の比をStimulation Index(SI)値として算出し、SI値が3以上の場合に陽性と判定します。また、SI値が3を示す被験物質濃度(EC3値)を皮膚感作性強度の指標とします。 図2では、木材防腐剤のCCAおよび既存の呼吸器感作性物質のTMA(Trimellitic anhydride)のLLNA試験成績を示しました。CCA(Chromated copper arsenate)はクロム、銅、ヒ素化合物からなる木材防腐剤で、定着性、防腐効力、防蟻効力、経済性等多くの優れた性能を有しており、これまでに多く使用されていましたが、クロムおよびヒ素の発がん性などの安全性および環境への配慮から代替剤への転換が進んでおります。 図で示すようにCCA 0.3%から10%の 4濃度でLLNA試験を実施した結果、3%および10%濃度でSI値が4.6および13.7となり、EC3値は1.86%と計算されました。CCAのEC3値が2%以下であった事よりGHS(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals: 化学品の分類および表示に関す薬剤の免疫毒性-アレルギー性反応(シリーズ3)薬剤の知識
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