agreeable 第64号(令和4年10月号)
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)りた当量重質脂mpp(度濃sBCP nL10agreeable No.64 October 2022/10採取年代図2 地中海に棲息するスジイルカのPCBs濃度(ppm 脂質重量当たり)の経年変化(1990~2009年)濃度は各年の脂質中濃度を自然対数(Ln)で示します。実線はデータに近似した一般化加法モデルから平滑化されたトレンドを表します。破線は、95%ブートストラップ信頼区間を表します。赤線は繁殖や免疫などに影響が出ることが予想される40 ppmのラインを示しており、黄線はその半分の20 ppmのラインを示しています。(Jepson et al., 2016, Sci. Rep.の図を改変して表示)物質を活発に代謝分解することができます。ところが、鯨類にはある種の分解酵素が発達していない、もしくはこれに関与する遺伝子のないことが明らかにされています。こうした鯨類の特異な生理機能を考えると、その体内に有害物質が高レベルに蓄積するのは当然であり、地球生態系のなかでこの種の動物がもっとも毒性影響が懸念される種であるといえます。 Jepsonらの研究グループは、ヨーロッパの近海に棲息する4種の鯨類(ネズミイルカ、スジイルカ、バンドウイルカ、シャチ)を対象に、皮脂中PCBs濃度の経年変化(1990~2012年)について解析した結果を報告しています(Jepson et al., 2016)。1990年台初頭ではスジイルカやネズミイルカのPCBs濃度は減少していましたが、その後は濃度に下げ止まりがみられています(図2)。この理由として、環境中からのPCBsの鯨類の脂肪中への取り込み量とPCBsの体外排出量が一致し、「濃度の定常引用文献● 田辺信介, 2016. 生態系高次生物のPOPs 汚染と曝露リスクを地球的視座からみる. 日本生態学会誌. 66: 37-49.● Desforges et al., 2018. Predicting global killer whale population collapse from PCB pollution Science, 361, 1373-1376.● Jepson et al., 2016. PCB pollution continues to impact populations of orcas and other dolphins in European waters. Sci. Rep., 6, 18573.● Subramanian, A., Tanabe, S., Tatsukawa, R., Saito, S., Miyazaki, N., 1987. Reduction in the testosterone levels by PCBs and DDE in Dall’s Porpoise of northwestern North Pacific. Mar. Pollut. Bull., 18: 643-649● Tanabe S, Watanabe S, Kan H, Tatsukawa R., 1986. Capacity and mode of PCB metabolism in small cetaceans. Mar. Mammal Sci., 4: 103-124状態」に達したことが原因であることを指摘しています。このことは今後数十年の間、鯨類中のPCBs濃度が下がらず長期にわたって汚染が継続することを示唆します。そして、その「定常状態」濃度は、イルカ・クジラにとっての毒性閾値(繁殖や免疫などに影響を与える濃度:40 ppm脂質重量当たり)を超えていることから、今後長期にわたって鯨類への悪影響が予想されます。 このPCBsの「定常状態」がシャチの未来に危機的な影響を与えるかもしれません。最近、世界各地で過去に調査されたシャチ351頭のPCBs濃度に関する既存のデータを集め、生息域における個体数の変動と、イルカに対して生殖障害と免疫毒性を引き起こすと考えられるPCBs濃度との関係を解析することで、PCBs曝露がシャチ個体群の増減に及ぼす影響を予測することのできるリスクアセスメントモデルが開発されました(Desforges et al., 2018)。このモデルは世界29海域のシャチのメスとオスで今後のPCBs蓄積量の変化を推定し、生殖と個体数の維持にどのような影響があるかを今後100年に渡ってシミュレーションするものです。その結果、日本や北東太平洋等に棲息し高濃度のPCBsに汚染されたシャチでは、皮脂中のPCBs濃度が繁殖や免疫などに影響が出る40 ppmを上回っており、今後30~50年後に生息数が半減する予測が示されています。さらに100年後には日本やハワイ近海ではシャチの群れが完全に崩壊し、絶滅する可能性を指摘しています。 今後、シャチを含め日本沿岸域に分布する鯨類を対象に、多様な有害物質を網羅的に分析し、化学汚染の実態やそれが将来的にどんな危険をもたらすかを明らかにする必要があるでしょう。※英語名表記が多いため、横書にしております。POPs曝露による鯨類への影響と今後

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