agreeable 第64号(令和4年10月号)
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シロアリの巣の形巣の外観巣の構造とつの巣に住むシロアリの数)、シロアリホームの間取り(通路や部屋の配置)、快適性(温度や換気性能、断熱性)と、どちらかと言えば巣の中から目線で気になったことを調べてきた。しかし私にはもっと気になることがある。仕事柄、シロアリを求めてタイの熱帯林を歩き回ってきたのだが、経験を重ねるうちにだんだ逆光からのシルエットだけでも、だいたいなんという種のシロアリの巣か直感的にわかるようになってきたのだ。なにゆえだろうか。られているため、熟練してくるとパッと見た瞬間に種がわかるようになる。シロアリに精通した読者の皆様であれば、これに異論はないと思う。イエシロアリとヤマトシロアリを見分けるなんて、朝飯前どころか、起きてトイレに行く前くらいたやすいことであろう。い集めてアルコール漬けにした4万5千頭のシロアリを前にして、顕微鏡で一頭一頭観察し、顎の形などかをしていた。研究室を往復する時間ももったいなくて、自宅アパートのコタツで作業していたのだが、アルコール漬けのシロアリが放つなんとも言えない匂いが充満する中、眠くこれまで、シロアリの世帯人数(ひんと、巣を一瞬見ただけで、いや、生物の種というものは姿形で決め私は大学院生だった頃、タイで拾ら種を判別するという修行(研究)なるまで顕微鏡をのぞき、疲れたらそのまま寝て、起きたら再開という過酷な生活だったことを思い出す。しかしこの修行のおかげか、働きアリをちょっと見ただけで、直感的に種がわかるようになったのだ。そう、直感的なのである。なぜその種なのか、と言われても言葉ではうまく説明がつかないのだが、種の姿形の特徴を体で覚えたということだろう。話がだいぶそれてしまったが、シロアリ自身ではなく、巣を見ただけで直感的に種がわかるということは、巣にも種ごとに決まった特徴があるにちがいないのだ。そこで今回は、巣の決まった特徴を具体的に明らかにすべく、スミオオキノコシロアリの巣を使って調べてみることにする。もう何度となく出しているのでいらない気もするが、スミオオキノコシロアリの巣はこんな感じである(写真1左)。いつも思うのだけれど、こういうものを写真に落とすと、どうしてものっぺりとした感じになってしまって、巣の立体感を伝えきれない。それならば、巣を山にみたてて等高線で表現したらいいんではないか、と思いついたのだ。3Dスキャナーがあればいいのだろうけれど、当時、そんなものはまだ世に出ていないだけでなく、私はタイの山の中にいたのである。使えそうなものと言えば、日本の100均で買って持参したコンパス、メジャー、水準器と普通の塩ビ管である。これで3次元測定をする方法を考えてみた。まず、水準器とメジャーを使って巣の一番高いところを見つけ、そこを中心に東西南北それぞれ2mのところに塩ビ管を立てて目印にする(写真1)。それぞれの塩ビ管に2mの長さのひもをくくりつけてピッと伸ばし、隣のひもとぴったりくっつく点を見つければ、そこが正方形の頂点のはずなので、ここにも塩ビ管を打ち込んでおく。これで巣を中心に横軸(x軸)、縦軸(y軸)が引けたわけだ。次に、塩ビ管のところに垂直に棒を立て、巣の一番高いところから水平にひもを引っ張れば、高さ軸(z軸)も引くことができる。こうして巣の一番高いところから10cmずつ低くなる点の位置を調べ、x軸とy軸に落とす作業を8方向でやった。記録した点をグラフに書き込み、高さ毎に点を線で結んで等高線を書いたものが写真1右である。正直、なかなかよい出来だと思っている。スミオオキノコシロアリの巣は思いのほかきれいな円錐型であることがわかったのである。巣の外観だけでなく、巣の内部構造も知りたいところなので、3次元測定ではない新たな方法を考える。経験から言えば、さきほど3次元測定をした巣だけでなく、おそらくほとんどの巣はきれいな円錐形だと思われる。そうだとすれば、巣の一番高いところを通る断面はどの方角から切っても同じになるはずだ。ということで、3次元測定ではなく巣の断面を調べることにする。断面を調べれば巣の大きさによって巣の構造がどうなっているか、ということがよくわかるだろう。断面の測定はどのようにするか、        2平均値とする。同じように巣の半径図1のようにして考えてみた。巣の高さは断面の両側から測って、そのも両側から測って、その平均値とする。外壁の厚さはちょっと難しい。巣の頂点のところは素直にまっすぐ第7回agreeable No.64 October 2022/10〜シロアリの巣の形はどうなっているのか(前編)〜長崎大学山田明徳写真1 巣の外観の3次元測定左は実際に測定した巣、右は測定した結果を表したグラフ。グラフの等高線は10cm間隔、小さいマス目は50cm四方。おとなのシロアリ自由研究

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