agreeable 第64号(令和4年10月号)
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2.考察5agreeable No.64 October 2022/10の被害が多く、蟻害で27%、腐朽る部材であり、耐震上も重要な役割を有する部材です。これらに被害が集中しているのが文化財建造建物の構造安全性に大きな影響を与えていることが推定され、深刻な事象と言えます。(5)蟻害、腐朽の発生密度と築年数の関係生密度と築年数の関係を示しました。発生密度は、床面積当たり(㎡)の被害箇所数で算出しました。と、築100年から200年の間に被害密度が高い文化財が多いことが分かります。蟻害については、水回りがある住宅建築がここに多く含まれ、またシロアリの活動が次いで床組(床束、大引、根太)で21%となっています。これらはいずれも床下に位置す物の生物劣化被害の特徴であり、図7、図8に蟻害および腐朽の発築年数別に被害密度を見てみる活発な沖縄の住宅もここに含まれてきます。一つだけ突出して蟻害密度が高い建造物がありますが、これはある神社の小規模な建物で規模の割に多くの蟻害を受けたことが原因です。一方、腐朽については、耐朽性の高い樹種を使う沖縄の住宅では蟻害に反して被害密度が低く、沖縄以外の地域では蟻害と同じく住宅建築に被害密度が高いものが多くなっています。以上、本報告では、公益社団法人日本しろあり対策協会の各連携団体が実施した「文化財等建造物蟻害・腐朽検査報告書」をもとに、近年の文化財建造物の蟻害、虫害、腐朽被害、カビの発生状況およびその調査方法等を検討した結果について述べました。既往の調査結果に比べて、近年の文化財では蟻害の被害率が高くなっていることや、耐震上重要な床下・軸組下部部材の多くが多湿環境下にあり、蟻害とともに腐朽被害を受けている実態がこの一連の調査で明らかになったことは特筆すべきことです。これをもとに建物管理者に今後の文化財建造物① 築年数、延べ床面積、文化財区② 腐朽とカビの区別など、劣化事③ 補修の時期、内容に関する調査の適切な維持保全、修理を行ってもらうことができれば、本調査の社会への貢献度は極めて大きいと言えます。しかし、一方で調査方法などに関して検証すべき課題も見えてきました。今後、より良い調査を行うために調査項目や調査方法をどうすべきか、しかるべき場で検討し続けることが重要でしょう。検討を要する項目を列挙すれば、以下のとおりです。分などの調査対象建造物の基本情報の確かな収集象の特定方法に関する連携団体共通手法の作成        精度の向上なお、本調査は、歴史的、文化的に貴重な地域資源としての文化財建造物の劣化状況に関する基礎資料となるものであり、今後の地域創生の一助となります。今後も継続して実施していくことが望まれるとともに、報告書の提出先となる各自治体や建造物管理者には、劣化実態をよく知ってもらい必要な措置を時期を失うことなく適切にとってもらうよう訴えることが重要になると考えます。床組21%軸組43%束柱3%床3%壁4%その他11%柱18%腐朽土台25%床束10%大引 8%図7 蟻害発生密度と築年数の関係図8 腐朽発生密度と築年数の関係図6 腐朽部材別割合

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