agreeable 第64号(令和4年10月号)
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はじめに胞子と発芽菌糸の成長 ..      6(No59, 202107)で福田清春先生作放出されていることが分かりました。その大部分は換気口から出て行ったり、じゅうたんに付着したのち掃除機に吸われたりして居室から取り除かれたことでしょう。しかし、よく考えてみてください。放出された胞子の数は膨大です。99・99%の胞子が取り除かれたとしても、数千万個の胞子はまだ居室に残っているはずです。もちろんその大部分は乾いた環境に不時着したため発芽できずに死滅したかもしれません。しかし今一度考えてみてください。残された胞子は数千万個です。99・99%の胞子が水不足によって死滅したとしても、まだ数千個の胞子は死滅せず残っていることになります。そう考えると居ても立ってもいられなくなり、居室内をいろいろと探してみました。その結果、オー・マイ・ガーシュ。これ以上書くと後々に証拠を残すことになりますので前回のお話はここでお開きにして、ここからは胞子のその後の話に移りたいと思います。「木材腐朽菌の生活環」をお見せしましたが、その図の右側に「胞子」→「発芽」とあったのを覚えているでしょうか。覚えていない方も多いと思いますので、図を載せておきましょう(図1)。きましたが、そもそも胞子とは何でし前回、子実体から膨大な数の胞子がおとなの自由研究の最初の回これまで胞子について色々と調べてょうか。少し専門的になりますが生物学的に考えると、植物の花粉に相当するのが菌類の胞子です。ただ、菌類と植物とでは生活環が大きく違いますから、胞子を花粉に当てはめてしまうとその後の理解が難しくなります。そこで生物学的には胞子≒花粉とするのが正解ですが、ここでは発芽後の活動が似ていることから胞子≒種子として説明することにします。植物の種子が地面に落ちるとそこで種子から芽や根を伸ばします。これが見つけたものです。画面にある楕円形のものが胞子ですが、中央に細長い形をした逆「く」の字の形が見えます。さらによく見ると、折れ曲がっているところに楕円形の胞子の痕跡があります。この長細いものが菌糸で、胞子から菌糸が出てくることを発芽といいます。このとき出てくる菌糸の太さですが、写真1から数µmと非常に細いことが分かります。め芽や茎のことは忘れ、発芽した植物の地下部に集中してみましょう。地下部にある植物の構造、すなわち根についてイメージしてください。植物の根は土壌中にある栄養や水分を吸収するため枝分かれしながら広がっていきます。木材腐朽菌もこれと同様、胞子から伸びた菌糸が木材中にある栄養や水分を求めて枝分かれしながら広がっていきます。この様子を模式的に示したものが図2になります。中央右側にある青色の小さな卵の形をした点が胞子です。そこから発芽して伸びた最初の菌糸が左斜め上へと伸びていきます。発芽です。菌類の場合も同じで、胞子が木材に付着すると胞子から菌糸が伸びてきます。これを発芽と言います。写真1は前回の原稿にも登場した市原優博士にお願いし、シイタケの胞子を光学顕微鏡で観察してもらったときに偶然さてここで話を分かりやすくするたこの菌糸を茶色で示しました。菌糸は伸びる途中で枝分かれを繰り返します。図2の例は、胞子から最初に出てきた茶色の菌糸が左、右、左と3回枝分かれをした時点のスナップショットとなります。さらに枝分かれしてできた菌糸も最初の菌糸と同じように伸びる際に枝分かれしていきます。茶色の菌糸から枝分かれしてできた菌糸(緑色の菌糸)を見ると、図2の時点で根元から先端に向かい左、左、右と枝分かれしていることが分かります。今回茶色の菌糸、緑色の菌糸について説明しましたが、他の菌糸についても同様です。菌糸はこのように伸長と分岐を繰り返し栄養を摂取する範囲を広げていきます。では、図2の段階、すなわち木材腐朽菌が成長をはじめたごく初期段階、の模式図が時間の経過と共にどのように変わっていくか少し考えてみてください。皆さんがご想像したように個々の菌糸が伸長と分岐とを繰り返すことにより、菌糸が占める面積は時間と共に広第6回agreeable No.64 October 2022/10おとなの自由研究写真1 発芽した胞子(写真中央)50µm図1 きのこの生活環図2 菌糸成長の模式図〜木材腐朽菌〜森林総合研究所 桃原 郁夫

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