agreeable 第64号(令和4年10月号)
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菌糸の集合子実体中の菌糸腐朽材中の菌糸7agreeable No.64 October 2022/10がっていくはずです。しかしそれだけではありません。場合によっては、菌糸が菌糸の上に重なり成長していくこともあります。その結果、一本一本は細くて肉眼で見ることのできない菌糸でも、それが積み重なることで菌糸の密度が上昇し目に見えるようになります。このような状態の菌糸を菌叢(菌そう)と呼びます(写真2)。木材表面にべったりと、あるいはフワフワとした白いものがついていることがあります。そのような時は、菌糸が集まってできた菌そうが見えていると考え、内部の腐朽を疑ってください。した。菌糸も植物の根も伸長と分岐とを繰り返しながら成長していきます。この点は菌糸も根も一緒です。一方、違う点もあります。それは根が時間の経過と共に太くなっていくのに対し、菌糸の太さは変わらないということです。しかしそれでは困ることもありまさて、先に菌糸を植物の根に例えます。例えば菌糸が木材という安定した環境を飛び出し土壌中に伸びていこうとする場合です。なぜ困るのか、その理由についてまず説明しましょう。木材を餌として利用できる生物は、木材腐朽菌やシロアリなどわずかしかいません。このため、木材内にいる木材腐朽菌は他の生物から攻撃されることなく、安心して伸長と分岐を繰り返しつつ成長することができます。これに対し土壌中はどうでしょう。さまざまな微生物がいるほか、昆虫などの節足動物、ミミズなどの環形動物など、無数の外敵に菌糸はさらされます。ここに太さ数µmという細い菌糸がでていくのは、ゾンビうごめく世界に丸腰で突入するようなものです。ゾンビに返り討ちにされないよう菌糸はどのように行動すれば良いでしょうか。興味深いことに映画の世界と同じ行動を菌糸はとります。ゾンビによる攻撃から自分(たち)を守るため、細い菌糸がチームを組んでゾンビうごめく世界に飛び込むのです。このチームを組んだ状態の菌糸を菌糸束と呼びます。写真3は土壌中から引き抜いた試験体から出ていた菌糸束です。太さ数µmという細い菌糸であれば土から引き抜く際にちぎれてしまうはずですが、チームを組んで結束したことにより、多少外力がかかってもそれに抵抗できる強靱さを獲得したことが分かります。例があります。そう子実体です。子実体を切断しその断面を観察してみましょう。ここからは再度森林総合研究所関西支所の市原優博士の協力を得て進みます。     を使用しました。シイタケの柄を真ん中付近で輪切りにします。さらに円盤状になった柄を中央付近で今度は軸の長さ方向に沿って切断します。さらに切断面の少し内側にも切れ目をいれ、その端をピンセットでつかみ引き剥がします。この引き剥がした試料を光学顕微鏡にセットして観察したものが写菌糸束以外にも菌糸がチームを組む今回は天ぷら用に購入したシイタケ真4です。目をこらしていただけばシイタケを支えるために菌糸が同じ方向に並んでいるのが見えると思います。最後は腐朽材です。前回、前前回と動画を紹介しましたが、そこに出てきたシイタケ畑から広葉樹のほだ木を拝借し、ほだ木の内部から木片を取り出します。この木片をナイフでさらに細かく切断したものを観察用試料とします。この試料に金をコーティングした後、走査型電子顕微鏡にセットして観察開始です。写真5はこのとき撮れた写真の中の一枚で、広葉樹にある道管内に菌糸がネットワークを張り巡らせたところを写したものです。前処理をはしょったため菌糸がしぼんでいますが、木材中を多数の菌糸が伸びていることはご確認いただけると思います。菌糸によって劣化した腐朽材については、またの機会にご紹介させていただくとして、次回から高知工科大学の堀澤先生にバトンタッチしたいと思います。写真3 腐朽材から土壌中へと広がっていた菌糸(菌糸束)写真4 子実体の柄を構成する菌糸写真5 腐朽材にあった菌糸のネットワーク写真2 寒天培地で培養することで見えるようになった菌糸(菌そう)

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