agreeable 第65号(令和5年1月号)
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DNAの塩基配列を用いた木材腐朽菌の同定DNAの分子構造と複製のしくみ生体分子であるDNAを微量でも得ることができれば、PCRによってDNAを増幅できるので、生物の検出も配列分析も可能になります。まずDNAの分子について説明します。DNAは4種類のパーツをいくつもつなげてできる、長い鎖状の分子です(図2)。このパーツはヌクレオチドといって、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4種類があります。したがって、遺伝子は4文字だけを使って書かれている暗号といえます。ヌクレオチドを長くつなげることでゲノム、すなわち生物個体の設計情報となります。DNAの鎖におけるヌクレオチドの数は「塩基」という単位で表されます。例えばヒトのゲノムの場合は、約30億塩基の分子となります。さて、DNAは、はしごのような二重鎖を形成しています(図2、③)。向かい合ったヌクレオチドのAにはT、CにはGが必ず対合しています。この一見面倒くさそうな法則は、DNAを複製するときに驚くべき利点を発揮します。DNA分子は細胞分裂ごとにひとつの間違いもなくコピーが作られなければなりません。図3に示したように、2本の鎖を1本ずつにはがし、それぞれの鎖に対してヌクレオチドをひとつずつ対合させていくことで、全く同じ配列の新しい二重鎖が2本合成されます。コピー元の前号で、森林総合研究所の桃原郁夫さんか6   ら予告がありましたが、今回より私がバトンを受けて誌上セミナーを担当いたします。木材腐朽の研究において、その腐朽の原因菌を解明することは重要です。木材腐朽菌はキノコやカビの仲間であることが多く、それらは菌糸をつくって増殖しています。菌糸には外観的特徴が乏しく、運良く子実体や胞子が得られるとき以外は、観察だけでは菌の名前を知ることは困難です。そのようなときは、遺伝子の塩基配列の情報に基づいた同定が大変有効です。腐朽材または単離した菌糸からDNAを抽出し、生物種を調べるときに使われる「バーコード」と呼ばれるDNA配列をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅します(図1)。これについては以前に本誌で紹介したのですが(1)、紹介に止めて原理の説明はしませんでした。その後コロナウイルスパンデミックを経て、PCRという用語が一般的に使われるようになったので、ここでPCRの原理と使い方を簡単に説明しようと思います。高知工科大学 堀澤 栄agreeable No.65 January 2023/1図1 木材に発生した腐朽菌からDNAの抽出手順.図2 DNA分子の構造.①4種類のDNAのヌクレオチド.② グレーの部分で連結することで長い鎖状分子となる.③ DNAの二重鎖の構造,AにはT,CにはGが対合する.第1回木材腐朽菌ケンキュウ室分析技術①〜PCR〜

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