PCRの原理配列の解析および菌種の検索7agreeable No.65 January 2023/1二重鎖ア、イ(図3)が1本ずつに分離し、それぞれの鎖に新しい鎖(紫で示した鎖ア’、イ’)がつくられ、その結果アとイ’、ア’とイの2組のDNA二重鎖が出来上がります。ちなみに鎖を合成する方向は一方向で、図のDNAの鎖の矢印の方向です(図2、②)。PCRはDNA分子の化学構造と細胞中における酵素的合成を試験管内で可能にした技術です。試験管の中にコピー元となるDNA分子、4種類のヌクレオチド、DNA分子を合成する酵素、そしてプライマーと呼ばれる分子です。プライマーとは短い1本鎖DNAであり、多くの場合は20塩基程度の長さにします。その配列は増幅したいDNAの範囲ほぼ両端の配列を採用します。PCRで増幅されるDNAの長さはこれらのプライマーに挟まれた部分に限られます。PCRは3段階のステップを1サイクルとします(図4、上)。ステップ1では高温にすることで二重鎖を1本ずつに分離させます。次に温度を下げたとき、長いDNA分子どうしが再度結合するよりも、短いために結合しやすいプライマーが先に結合します。次のステップ3では酵素の最適温度にすることで、新しいDNAを合成します。このような温度変化を調整できる装置を使い、このサイクルを20~DNAの配列が爆発的に増幅されます(図4、下)。PCRには、高温性のバクテリアの生産するDNA合成酵素が用いられるので、95℃を超えるような高温でも失活することなく、30サイクルの反応に耐えることができます。DNA分子を用いた木材腐朽菌種の同定は、 PCRが可能な濃度と精製度のDNAさえ取得できればそれほど困難ではないですが、この抽出が最もハードルが高いと言えます。特に腐朽が進んだ木材では、木材の分解成分がDNA抽出にもPCR阻害にも大きな影響を及ぼします。また、固い細胞壁を持つカビ・キノコの仲間からのDNA抽出は難易度が少し高いことも事実です。しかし近年では優れた抽出方法や試薬の組み合わせが開発されて、かなり幅広い状態の腐朽材からDNA抽出が可能となりました。DNAの塩基配列を解析できたのであれば、生物情報データベースを用いて、検索エンジンでキーワードを打ち込むのと同じ感覚で、類似した遺伝子配列を検索することができます。そして、ヒットしてきたDNA配列に付された生物の分類情報から、自分が分析してきたDNAの持ち主を推定します。(1)堀澤agreeable 30, 2-3(2014).図4 PCRの原理.上:1サイクル目の反応.下:温度サイクルの例.図3 DNAの複製.元のDNA二重鎖(グレー)が1本ずつに分離され、これに対し新しい鎖(紫)が作られる.30回繰り返すと、プライマーで挟まれた
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