しろありNo.165
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7Termite Journal 2016.1 No.165解 説Commentary1.はじめに シロアリ防除における最大のマーケット, 米国においては, 地下シロアリの防除は現在そのかなりの部分がキチン合成阻害剤や遅効性薬剤を有効成分としたベイト剤によって行われている。また, 土壌処理に関しては, 合成ピレスロイド系, ピロール系およびクロロニコチニル系の薬剤が用いられている。ガス製剤やダスト剤, さらには泡製剤なども土壌処理用として検討されているものの, 十分な信頼を得るまでには至っていない1)。環境問題, より具体的にはシロアリ防除薬剤の住宅内外での施工や注入処理用薬剤における重金属の使用というものは, 木材産業と消費者の両者にとって考慮すべき課題となってきている。一方, ホウ素化合物(ホウ酸塩)による木材の処理は, シロアリによる食害から住宅を護る手段として有効であるだけでなく, グリーンな建築技術の推進という点からも優位性を持つ。なぜなら, ホウ素化合物を有効成分とする木材保存剤は, 地下シロアリ, 乾材シロアリ, 乾材害虫, アリ類および木材腐朽菌類に高い効果を有しながら, 人間や環境に対しては最低限の毒性しか示さないのである。 シロアリや木材腐朽菌が生息する世界中のどの地域においても, ホウ酸塩で処理された木材はこれまでいろいろな住宅部材に使用され, 効果を発揮してきている。ホウ酸塩の高い生物活性は過去何世紀にもわたって良く知られており, 20世紀の後半から木材保存剤への応用が拡大し続けている。ホウ酸塩はコストが安く, 製材品や種々の木質材料の処理に対して容易に利用することができる。処理木材は無色かつ無臭で薬剤の揮散や分解がなく, また腐食性もないことから特別な取り扱いは必要ない2)。 ホウ素は土壌中, 水中および動植物の生体組織中でもっともありふれた元素の一つであり, 酸素やその他の元素と塩を形成してホウ酸塩(borate)と総称される化合物をつくる。このホウ酸塩が, シロアリやその他の昆虫類, そして木材腐朽菌類による木材の生物劣化に対する薬剤有効成分として用いられるのである。ホウ酸塩を有効成分とする木材保存剤には, 単剤から合剤までいくつかのバリエーションがある。別の有効成分や撥水剤と複合することにより, より長い耐用年数とより広い生物活性スペクトルを得られるようになることが知られている3)。 ホウ素はある濃度レベルまでは生体の必須元素であるが, それを越えると有機化合物との高い錯体形成能力のために有害となる4)。Freemanらは, ホウ素がシロアリ後腸内のセルロース分解性共生原生動物に毒性があり, 結果として代謝機能の低下, 最終的には飢餓状態を引き起こすとしている5)。シロアリ体内に取り込まれたホウ酸は, 食物交換によってコロニー全体に拡散する可能性がある。また, 排泄されたホウ素も蟻道に付着し, 他のコロニーメンバーによる蟻道の構築や食害活動に影響を及ぼすことになる。 ホウ素化合物は天然の生理活性物質としていろいろな昆虫類の防除に応用されている。例えば, シロアリに対しては実験室と野外試験の両方で十分な効果が認められているが, 必要とされる濃度は乾材害虫の場合よりも高い。ホウ酸塩は, イエシロアリが深刻な被害を与えているいろいろな地域において有効であることが示されている4)。2.シロアリ防除のためのホウ素系木材保存剤 以下のような無機および有機ホウ素化合物が木材のシロアリ防除対策用として重要である3)。2.1 無機系ホウ素化合物ホウ酸(boric acid)-B(OH)3 ホウ酸は透明でフレーク状の結晶あるいは紛状である。哺乳動物への毒性は極めて低いものの, 菌類, バクテリアおよびシロアリを含む昆虫類に対して高い毒性を示す。ホウ酸塩:木材をシロアリから護るための天然薬剤翻訳 京都大学生存圏研究所 吉村  剛サイップ・ナミ・カータル(Saip Nami Kartal)イスタンブール大学林学部 

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