しろありNo.166
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10Termite Journal 2016.7 No.166大阪市立大学大学院生活科学研究科 土井 正災害時避難所における耐久性に関する課題-高知県における(公社)日本しろあり対策協会 蟻害・腐朽検査報告書の分析から-報文Reports1.はじめに 公益社団法人日本しろあり対策協会(以下, 白対協)は, 蟻害・腐朽検査技術及び検査員の存在を広く一般の人々に広報する目的で「文化財建造物等の蟻害・腐朽調査事業」を公益事業として実施し, 全国各地で文化財等の蟻害・腐朽検査を無償で行っている。シロアリの食害や腐朽等の劣化を受けやすい, 比較的管理の手薄な地方文化財建造物(以下, 文化財)の劣化の現状を明らかにすることで, 住宅の生物劣化への関心を高めることに狙いがあるといえる。 本事業において, 連携団体である四国地区しろあり対策協会は南海トラフの巨大地震の影響を強く受ける高知県の要請もあり, 一般的な文化財ではなく災害時避難所を調査対象に設定し, 毎年50ヵ所程度の避難所の蟻害・腐朽調査を実施している。本研究は, 平成24年度及び25年度の2ヶ年分の文化財建造物等蟻害・腐朽調査事業調査報告書(以下, 報告書)を用いて検討を行っている。2.災害時の避難所について 平成25年6月に災害対策基本法が改正され, 切迫した災害の危険から逃れるための緊急避難場所と, 一定期間滞在し, 避難者の生活環境を確保するための避難所が明確に区別された。改正前には災害の危険から逃れるための避難場所と避難生活を送るための避難所が必ずしも明確に区別されておらず, 東日本大震災ではこのことで被害を拡大したといわれている。 岩手県釜石市鵜住居地区では, 昭和三陸津波を教訓に, 毎年3月3日の早朝に避難訓練を実施している。津波に備えた本来の避難場所は集落の山側に設定されている。しかしながら, 市役所や消防署の出張所や公民館機能を持った鵜住居地区防災センターが, 津波避難区域内に設置され, いつしか訓練時のみ避難場所が地区防災センターとされるようになっていた。そのため, 東日本大震災の一週間前に行われた避難訓練も地区防災センターに地域住民が集合していた。本番となった3月11日も多くの地域住民が地区防災センターに避難したため, 津波によって200人余りの犠牲者を出すことになった。2.1 指定緊急避難場所 このことを受けて, 災害対策基本法が改正され, 同法第49条の4では災害が発生し, 又は発生するおそれがある場合にその危険から逃れるための避難場所として, 洪水や津波など異常な現象の種類ごとに安全性等の一定の基準を満たす施設又は場所を市町村長が指定する指定緊急避難場所が規定された。津波や火事などから一時的に避難するための学校などの施設や公園, 高台等が緊急避難場所に指定されている。 災害対策基本法施行令(以下, 令)第20条のでは法第49条の4第1項の政令で定める異常な現象の種類を洪水, 崖崩れ・土石流及び地滑り, 高潮, 地震, 津波, 大規模な火事及び前各号に掲げるもののほか, 内閣府令で定める異常な現象の種類と規定されている。2.2 指定避難所 一方, 同法第49条の7では, 災害の危険性があり避難した住民等を災害の危険性がなくなるまでに必要な間滞在させ, または災害により家に戻れなくなった住民等を一時的に滞在させるための施設として, 災害の種類を問わず市町村長が指定する指定避難所が規定されている。 災害発生後, 自宅等からの避難が必要な方が一時的に生活の場を確保する施設(学校などの公共施設等)を総称して避難所と呼ぶが, 高齢者や障害のある方など, 一般的な避難所では生活に支障がある方を対象に特別な配慮がされた施設が「福祉避難所」として位置付けられている。指定避難所の基準は令第20条の6により, 以下の全てを満たすことになっている。・被災者等を滞在させるために必要かつ適切な規模のものであること。・速やかに, 被災者等を受け入れ, または生活関連物資を配布することが可能なものであること。・想定される災害の影響が比較的少ない場所にある

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