しろありNo.167
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39Termite Journal 2017.1 No.167一般社団法人 日本非破壊検査工業会 田代 秀夫非破壊検査手法によるシロアリ検知技術の開発報文Reports1. はじめに 国土交通省住宅局では, 新成長戦略として, 新築中心の住宅市場から, リフォームにより住宅ストックの品質・性能を高め, 中古住宅流通により循環利用されるストック型の住宅市場に転換し, 平成32年までに中古住宅流通・リフォーム市場の規模倍増(20兆円)を目指している。消費者が安心して中古住宅の取得やリフォームを行うためには, 売買される住宅の建物検査(インスペクション)と取得後に発見された住宅の瑕疵に対する保証が一体となった住宅瑕疵担保責任保険の充実・普及促進が取り組むべき課題の一つとなっている。一般社団法人日本非破壊検査工業会(以下, 工業会という)では, 平成22, 23年度の国土交通省委託業務「既存住宅売買・リフォームに係る保証・保険制度における技術的ガイドライン」を受託し, 既存住宅(木造一戸建て住宅, 鉄筋コンクリート造共同住宅)の劣化事象に係る検査方法・技術的基準の調査研究を進めてきた。その後, 工業会では, これらの調査研究を踏まえ, 国の整備事業として「シロアリ検知器」, 「コンクリートの強度推計, ひび割れ検査機器」, 「外壁検査機器」など建物検査機器の開発に携わってきた。 本稿では, シロアリ検知器について, 各種シロアリ検知技術の実証評価及び比較検討を踏まえ製品化した「マイクロホン式シロアリ検知器」の開発の概要について紹介する。2. シロアリ検知技術の調査1)2.1 シロアリ検知技術の検討 シロアリ検知技術については, 木材に生息しているシロアリを直接検知する方法と蟻道, 空洞などから間接的にシロアリの存在を検知する方法に分類される。 ① 直接検知方法:アコースティックエミッション(以下, AEという)による摂食音検知, 代謝ガス検知, 電磁波を利用した動きの検知, エックス線透過による検知など ② 間接検知方法:超音波や電磁波の伝搬速度, 反射等利用した強度・空洞検出, 衝撃打込試験(ピロディン), 穿孔抵抗測定(レジストグラフ), エックス線撮影など シロアリ検知器の開発は, 直接検知方法を検討対象として, 次の検知技術に着目した。 a) 挙動検知:電磁波を木材に照射して, 木材中のシロアリの動きをドップラ信号として受信し, ドップラ周波数のパワースペクトラムのレベルからシロアリを検知する方法で, ターモトラックという商品名で実用化されている。センサとシロアリの微弱な動きとの相対速度で検知するため, センサの振動, 周りの動きの影響を受けやすく, 設置方法, 取扱いに極めて注意が必要である。 b) 代謝ガス検知:シロアリ体内でセルロースから酢酸を生成する過程で発生する水素, メタン, 二酸化炭素などの代謝ガスを検知する方法である。これら代謝ガスのうち, シロアリに特化している点から水素ガスの検知が有効である。 c) AE検知:シロアリが木材を摂食する際に発生する超音波領域の弾性波であるAEを検知する方法で, 既に実用化されている。木材の表面にAEセンサを直接貼り付けて, 摂食音を検知するもので, 木材のつなぎ目は, AEが伝達されないので, 対象部位が広範囲に及ぶ場合, 複数のAEセンサを取り付ける必要がある。2.2 実用的なシロアリ検知技術の抽出 シロアリの調査は, 建築士が建物診断時に合わせて実施するため, シロアリ検知器には, 短時間調査, 操作性・取扱いが容易な利便性が要求される。これらの観点から, シロアリ検知器の開発は, ドップラレーダ法, 代謝ガス法, AE法の3検知技術に絞り込んだ。これらのシロアリ検知技術は, 京都大学などにおいて検証結果が公表され2), 一部製品化もされているが, これら技術の特長は生かしつつ利便性を図るためには改善の余地がまだ多い。利便性のあるシロアリ検知器の開発設

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