しろありNo.167
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1Termite Journal 2017.1 No.167富山大学大学院理工学研究部 矢口 甫, 前川 清人ネバダオオシロアリの兵隊分化の至近機構に関する生態発生学的研究報文Reports1. はじめに シロアリは世界で3,000種ほど存在し, 熱帯や亜熱帯, サバンナなどの生態系において, 分解者として重要な位置を占めている。我々の人間生活においては, 家屋に甚大な被害を与える家屋害虫として悪名高い。シロアリの成熟した巣内には, 多数の個体が見られるが, 彼らは好き勝手に行動しているわけではない。血縁者間の強い結びつきが存在し, 個体間の協調と分業を基本とした秩序だった社会を築いている。社会性昆虫と言えば, セイヨウミツバチApis melliferaやクロオオアリCamponotus japonicusなどが含まれる膜翅目を思い浮かべる方が多いと思うが, シロアリもその代表格の昆虫である。ただし, 膜翅目とは異なり, 現生のシロアリはすべての種が高度な社会性(真社会性eusociality, 以下参照)を有している。近年の系統学的な解析により, シロアリは, キゴキブリ(Cryptocercus属)と姉妹群関係にあるゴキブリ内の1グループであることが示されており1), 社会性をもったゴキブリであると言われている。したがって, シロアリがもつ高度な社会性は, シロアリとキゴキブリの系統が分岐した後, シロアリの共通祖先で一度だけ獲得されたと推測されている2)。キゴキブリは, 一夫一妻制の家族を単位とした社会形態をもつゴキブリであることから, シロアリは, 家族性をもつキゴキブリ様の祖先昆虫から進化したと考えられている3)。 真社会性は, 共同で育児する, 世代の重複が見られる, 個体間で繁殖上の分業がある, という3つの特徴により定義されており4), 巣内に存在する形態多型(カースト)による明確な役割分業と協調により特徴づけられる。シロアリのカーストは, 繁殖を担う生殖虫, 他個体の世話や採餌, 巣の建造などを行う職蟻, 外敵からの防衛を担う兵隊からなる。このうち, 機能だけでなく形態的にも防衛に特殊化した兵隊は, 膜翅目には見られないカーストであり, シロアリの社会性の大きな特徴であると言える。各カーストは兄弟姉妹であるので, 基本的に同一の遺伝情報(ゲノム)を有している。各個体がほぼ同一のゲノムをもつにもかかわらず, 異なるカーストに分化するのは, 個体を取り巻く環境条件が刺激となって働き, 各個体の発生が調節されるからである5)。これは表現型可塑性(phenotypic plasticity)の一種であり, 特に, カースト分化のように不連続な表現型が現れる場合を表現型多型(polyphenism)と呼ぶ6)。表現型多型は昆虫で幅広く見られる現象で, カースト分化のほかには, 幼虫期の温度条件によるチョウの翅の色彩多型, 日長によるアブラムシの翅多型, 幼虫期の餌条件による甲虫のツノ多型などがよく知られる例である7)。カースト分化の場合は, 周囲の温度や湿度などの物理的な要因に加え, 個体間のコミュニケーションを介した物質の授受が重要な要因として働くことは重要な点である。真社会性をもつ一部のアリやハチとともに, シロアリは, 表現型多型を最大限に活用し, 秩序ある社会を進化させたグループである。本稿では, シロアリのカースト分化のうち, 特に兵隊分化に注目し, 個体間コミュニケーションの重要性や制御因子を明らかにした筆者らの一連の研究例を紹介する。2. シロアリの兵隊 多くのシロアリにとって, 最も重要な外敵はアリであろう。彼らの巣への侵入や攻撃を防ぐために, シロアリのほとんどの種が防衛に専念する兵隊カーストを有している。各種の兵隊は, 多種多様な防衛戦略を発達させている。例えば, 著しく発達させた大顎を用いる「かみつき型」や, 左右非対称に発達した大顎を用いる「弾き飛ばし型」, あるいは頭部の分泌腺で合成された防衛物質を開口部から噴射させる「噴射型」など, 様々な方法を観察することができる。特殊な武器形態は主に頭部で見られるため, 兵隊の頭部は種判別をするための分類形質としても用いられる。兵隊が進化した適応的な理由としては, 親虫が子虫を守るための時間やエネルギーのコストを失くし, 繁殖に専念するために, 防衛に特化した兵隊が必要とされたとの指摘が

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