しろありNo.167
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54Termite Journal 2017.1 No.167された。AE計測では, 幼虫の連続的な摂食活動がリアルタイムに計測されたが, 脱皮や蛹化に伴いAE発生は停止した。X線CTとAEによるモニタリングを継続することで, 幼虫の発育や食害行動の詳細が明らかになると期待される。 S. Khoirul Himmi氏(京都大学)は「アメリカカンザイシロアリの初期コロニー融合」について報告した(写真4)。ワンピース型シロアリ類の生息場所は目視不可能で, 試料を破壊しない調査方法も存在しないため, その生態解析は困難である。本研究では, X線CTスキャンによって, アメリカカンザイシロアリの営巣行動や初期コロニー間の相互作用を観察することに成功した。ヒノキおよびベイスギ角材にアメリカカンザイシロアリを人工接種し, 半年ごとに各角材をX線CT装置(YXLON International社, 九州国立博物館所有)によるスキャンに供した。データ再構成はソフトウェアVGStudio Max 2.1(Volume Graphics社)で行った。実験開始直後, ヒノキ角材には3個の近接した王室が観察されたが, 1年後にはコロニーが融合していた。CTデータより, コロニー融合は開始年初期に起こっていたことが分かった。アメリカカンザイシロアリにおけるコロニー融合および初期コロニー間の相互作用に関する報告はこれまでにない。継続的な観察によって, 融合に伴うコロニー間の相互作用が友好的なものか攻撃的なものかが明らかとなると期待される。 吉村 剛博士(京都大学)は「乾材害虫:アジアからの展望」という演題で, 木材の国際貿易と住宅様式の変化を参照しつつ, 運搬手段と木材害虫の侵入について論じた。各国の林業統計情報を基に木材の輸出入量を調査し, さらに, 2008年および2014年に日本しろあり対策協会会員が対処した木材害虫の種類および回数の調査を行った。木材の国際貿易状況をまとめた結果, 挽材の第一の輸入国は中国で, 次いでアメリカおよび日本であった。マレーシア, インドネシア, タイなどの諸国はこれまで木質複合材料輸出量全体の20%を占めていたが, 現在は中国が大部分を占める。したがって, 木材害虫が熱帯アジア諸国から温帯諸国へ直接移動するだけでなく, 中国を経由する間接的な移入経路が存在することが示唆された。さらに, 日本におけるアフリカヒラタキクイムシの拡散や, アメリカヒラタキクイムシの移入, オオナガシンクイやホソナガシンクイの被害の増加などの報告が得られた。貿易統計情報や調査の結果から, 熱帯アジア由来の木材害虫の侵入リスクが今後も増加していくことが指摘された。その大きな原因として, 一年を通して一定温度に保たれ, 熱帯性外来種の発育を促進する高断熱住宅が挙げられた。3. その他 ICE 2016では, 参加者の便宜を図る目的でスマートフォン用アプリが配信された(図1)。これを使用することで, 数あるイベント・セッション・発表をキーワー写真4 講演を行うS. Khoirul Himmi氏(本人提供)図1 参加者向けのモバイルアプリの一画面
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