しろありNo.173
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広島大学大学院工学研究科建築学専攻 森 拓郎2.2 シロアリによる食害操作 シロアリによる食害処理は, 鹿児島県吹上浜の松林にある京都大学生存圏研究所共同利用施設である森林圏シミュレーションフィールド(LSF), 和歌山県煙樹ヶ浜試験地にて実施した。本処理を実施するに際して, 先にイエシロアリを試験箇所に寄せた後, 食害処理を開始するためにブロックを設置し, その間に杭を打ち込み, その上に試験体を設置することでシロアリが試験体へ進入しやすいようにした。また, シロアリが活動しやすい環境をつくるため, 簡単な小屋またはプラスチック容器で覆うなどし, その中で食害を進行させた3)。2.3 促進劣化前後の測定項目 本研究で劣化の程度を測るために用いた測定機器は, 打込み深さ測定器(Pilodyn®6.0J)である。打込み深さ測定器は, エネルギーが一定(6.0J)のバネを用いて40mmの鋼製ピンを打込むもので, 表面付近が劣化した場合に鋼製ピンの打込まれる深さが変化することを利用した診断機器である。また, 試験後に材料の一部を切り出し, 乾燥させた後, 含水率と容積密度(現在の乾燥後重量に対する元の断面寸法から計算した密度)を計測した。Research Topics図1 引き抜き試験体の形状および寸法Termite Journal 2020.1 No.1737研究トピックスシロアリ食害材に打ち込まれた釘接合具の引き抜き性能1. はじめに 前号にも「シロアリ食害材に打ち込まれた釘接合具のせん断性能」1)を書かせていただいたが, 木質構造の長期利用への期待が高まってきている。しかし, この木質構造物の長期利用において, 劣化速度の速い生物劣化が問題となっており, その被害個所における残存性能の評価法は確立されていないのが現状である。そのため, 近年様々な研究者が残存性能に関する研究を実施しており, 筆者も京都大学生存圏研究所の全国共同利用研究施設であるDOL/LSFを用いてシロアリによる食害を受けた木ねじ接合具のせん断性能評価とその推定方法などを提案してきた2)。しかし, 接合具としてよく用いられている釘に関するデータは不足しており, そのため釘接合具におけるせん断性能評価に関する報告を本誌にて行った。 そこで, 継続研究として実施している釘接合具の引き抜き性能に関する研究について, 実験によって得られた残存引き抜き性能の評価と, 併せて計測したピロディンを用いた打込み深さとの関係について報告する。2. 試験概要2.1 試験体概要図1にせん断試験体の形状及び寸法を示す。試験体はスギ製材より60×60×300mmの材を切り出し, 長さ50mmの鉄丸釘(N50)2本を45mmの打込み深さで120mmの距離をあけて打ち付けたものとした。なお, 釘は木表から木裏に向けて打ち付けた。食害のない試験体を無処理試験体, シロアリによる食害を進行させた試験体を食害試験体(以下, 前施工試験体)とした。また, 実物件における補修を想定して試験後に新たに釘を打ち直し(以下, 後施工試験体), 再び試験を実施した。なお, 釘の打ち直し位置は一度目の試験の際の釘穴から繊維方向に約10mm離した位置とした。

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