e−H2O−水H2O2O2 O2 成熟したヤマトシロアリのコロニーでは複数の二次女王が観察できる。卵巣の発達により肥大した腹部を持つ女王集団(画像中央)とそれを囲むワーカー。酸素スーパーオキシドアニオン過酸化水素ヒドロキシラジカル図1 生体内で発生するROSとそれを抑制する代表的な抗酸化酵素 図2 ヤマトシロアリの女王とワーカー SOD, スーパーオキシドディスムターゼ ; CAT, カタラーゼ.1313SODCATFe2+3.1 スーパーオキシドディスムターゼ(SOD) SODの中には, 細胞質基質局在型SOD(SOD1; Cu/Zn-SOD)やミトコンドリアマトリックス局在型SOD(SOD2; Mn-SOD)などの存在が知られているが, 実際にヤマトシロアリもこれらの酵素をコードする遺伝子を有していることが筆者らの研究から明らかになった9)。これらの酵素活性をヤマトシロアリのカースト間で比較したところ, ヤマトシロアリの女王のCu/Zn-SOD活性が非生殖カーストのものより高いことを示した(図3A)。さらに, Cu/Zn-SODをコードする遺伝子RsSOD1の発現量をカースト間で比較したところ, 女王で特に高い発現量を示さず, 酵素活性の結果とは異なっていた(図3B)。酵素活性と遺伝子発現量の挙動は必ずしも一致するものではなく, 例えば酵素周辺環境の銅濃度の違いがCu/Zn-SODの活性に影響を与えることが報告されている10)。そこで, シロアリについて生体内の銅濃度を比較したところ, 女王の生体内の銅濃度がワーカーのものと比較して有意に高いことが示された(図3C)。この銅濃度の違いはどのようにして生み出されたのだろうか。興味深いことに, 地下性のシロアリは, 土壌などから銅などの金属イオンを能動的に摂取している11)。また, ヤマトシロアリの女王は後腸内に共生原生動物を持っておらず12, 13), 自ら栄養の摂取を行わずにワーカーからの給餌に依存している。これらの知見は, 女王の高いCu/Zn-SOD活性が, ワーカーからの給餌によってもたらされた生体内の高い銅濃度に依存している可能性を示すとともに, シロアリの繁殖分業におけるワーカーの給餌行動が女王の 抗酸化システムに重要な役割を果たしていることを示唆する。OH3. 女王の抗酸化システム 長寿かつ多産の表現型を示すシロアリの女王は, どのような抗酸化システムを備えているのだろうか。ヤマトシロアリは, 単為生殖で女王を継承する繁殖システム(asexual queen succession; AQS)を持つことが知られており8), ひとつの巣内から多くの二次女王(以下、女王と呼ぶ; 図2)を採集することができるため, 多量のサンプルを必要とする生化学実験とも親和性が高い。さらに、毒性の高いヒドロキシラジカルの産生抑制に関与するスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)とカタラーゼ(CAT)は, 抗酸化システムの中でも重要な役割を果たしている。そこで, 寿命や繁殖能の異なるヤマトシロアリの女王と非生殖カーストを用いて, これらの抗酸化酵素に注目した比較解析を行った。
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