1818 2016年5月から8月にかけて兵庫県川西市においてネバダオオシロアリの成熟コロニーを四つ(A-D)採集した。採集後のコロニーからシロアリを取り出し, スチロールケース内でベイマツ材をスライスしたチップを用いて飼育し, 25℃の全暗条件で維持した。そのうち2つのコロニー(A, B)を腸内微生物除去及びセラチア菌への暴露実験に使用した。コロニーAからは48匹の擬職蟻を, コロニーBから24匹の擬職蟻と24匹の若齢ニンフを取り出した。それぞれのコロニーから取り出した個体を微生物除去(腸内微生物(−))・コントロール(腸内微生物(+))の2つの処理区に分けた。まず腸内微生物除去個体においては, テトラサイクリン1.0 × 103 mg/Lとメトロニダゾール2.0 ×103 mg/Lを含む1mLの蒸留水を70mmろ紙に含ませて与えた。残りの個体はコントロールとして用い, 抗生物質を含まない蒸留水を同様にして与えた。4日後, 薬剤を取り除くために, 不織布を敷いた90mmシャーレ上にシロアリを移し, 2日間飼育した。 実験に使用するセラチア菌はネバダオオシロアリの飼育コロニーから単離・培養したものを使用した(GenBank accession no. MG770609)。腸内微生物(+), (−)の個体をそれぞれ2つに分け, 片方にはセラチア菌を増殖させたろ紙を与え(セラチア(+)), もう一方にはコントロールとしてLB液体培地をしみこませたろ紙を与えた(セラチア(−))。2日後にシロアリを取り出し, 蒸留水でシロアリを軽く洗浄した。24ウェルプレート(Falcon, USA)に15mmろ紙を1枚敷き, 50μLの栄養液(グルコース1%, イースト抽出物1%を含む水溶液)を加えた上にシロアリを1匹ずつ置いた。1日後, シロアリとろ紙を取り出した。シロアリは解剖して腸を取り出し, 直接観察により原生動物量を測定し, 腸内の酢酸量を定量した。ろ紙についてはセラチア菌の生産した色素を抽出し, 色素量を定量した。それぞれのコロニーは以下の四処理区に分けられた。 ・腸内微生物(−), セラチア(+) (N=21) ・腸内微生物(−), セラチア(−) (N=21) ・腸内微生物(+), セラチア(+) (N=23) ・腸内微生物(+), セラチア(−) (N=24) 処理の途中で脱皮した個体や死亡した個体は取り除いた。2. 材料と方法2.1 シロアリからの腸内微生物除去及びセラチア菌への暴露2.2 セラチア菌量定量 セラチア菌の生産する赤色色素であるプロジギオシンは容易に抽出が可能で, 緑色光(波長540nm)をよく吸収するため, 分光光度計(Multiskan FC; Thermo Fisher Scientific, China)を用いて定量が可能である。セラチア菌の増殖量を赤色色素の量から推定するために, 540nmの吸光度(OD540)とセラチア菌のコロニー形成単位(colony forming units, CFUs)の検量線を作成した。プロジギオシンについては, セラチア菌の培養液100μLにメタノール:クロロホルム=1:1の混合液を加えた後に色素を含むクロロホルム層を分離させて取り出し, 揮発させた後にメタノールで再度融解し抽出した。CFUsについてはLB寒天培地上にセラチア菌の液体培養液を播いてコロニー形成数をカウントし, 100μLの溶液中のコロニー形成単位の総量をセラチア菌量とした。検量線は以下の式となった:(セラチア菌量) = (OD540)× 1.7 × 1011 +7.0 ×108 (P < 0.001, R2 = 0.9926)。次に, 上記(シロアリからの腸内微生物除去及びセラチア菌への暴露)で得られたろ紙上のセラチア菌量を色素量より推定した。凍結乾燥させたろ紙にクロロホルム・メタノール1:1混合液を加え, 上記と同様にして540nmの吸光度を測定した。2.3 腸内酢酸濃度の定量 まず腸内酢酸の絶対量を酢酸定量キット(Bioassay Systems, USA)と蛍光プレートリーダー(Fluoroskan Ascent FL; Thermo Labsystems, China)を用いて定量した。次にシロアリの後腸の体積をシロアリの生重量との検量線から推定した。検量線は, 三コロニーから取り出した擬職蟻と若齢ニンフを用いて作成した (コロニーB, C, Dを使用)。体重を測定した後に後腸を取り出して写真を撮り, 画像解析によって複数の楕円の回転体に近似することで後腸の体積を推定した。後腸の体積は6.75 ±0.465μL (平均値±標準誤差)であった。線形回帰の結果, 検量線の式は以下の通りであった(腸体積[μL]) = (生重量 [mg]) × 0.1734 + 0.4696 (P < 0.001, R2 = 0.45)。腸内の酢酸濃度については酢酸量を上の式で推定した腸体積で割ることにより算出した。
元のページ ../index.html#22