自然科学研究機構 基礎生物学研究所 野㟢 友成京都大学農学研究科応用生物科学専攻Abstract of Doctor Thesis図1 シロアリの生活史と繁殖個体の変化。写真はヤマトシロアリ。シロアリ女王は巣の拡大に伴い卵生産へと行動・生理的に専門化する。また創設王・女王が死亡もしくは繁殖能力が低下した際に, 補充生殖虫が出現し繁殖を引き継ぐ。巣内の女王数である。多くのシロアリでは巣内の状況に応じて補充の生殖虫を生産するが, いくつかの種では, これら補充女王を単為生殖によって生産することにより, 近親交配を回避しながら女王数を増大させている(図1)。本研究では, 社会性昆虫の女王が示す高い繁殖能力とその進化過程についての理解を深めることを目的とし, シロアリ女王の活発な卵生産を支える生理学的な特殊化と卵形成の季節的な制御機構, および単為生殖による女王継承システムの進化について調べた。本博士論文の内容は以下のように要約される。45 博士論文抄録シロアリ女王の卵生産と脂肪体における核相倍加に関する研究1. はじめに シロアリをはじめとする社会性昆虫において, 繁殖の分業は最も重要な特徴の一つである。集団中には繁殖に専念する個体とその他の労働に従事する個体が存在しており, 両者はそれぞれ機能的に特殊化している。巣内の卵生産を一手に担う雌繁殖虫, つまり女王は巣の規模が大きくなるにつれ解剖学的に卵生産へと高度に専門化する。腹部が極端に膨満し,その内部のほとんどは巨大な卵巣と卵黄タンパク生産の場である脂肪体で占められるようになる。女王の卵生産能力に加え, 集団としての増殖率に対して決定的な意味をもつのが
元のページ ../index.html#49