しろありNo.173
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発達の早い段階で女王の脂肪体を構成する細胞の約80%が倍数化していることが明らかになった。また大量産卵の開始後も,同程度の高い倍数化レベルが維持されることが示された。以上から脂肪体の倍数化はシロアリ女王の卵の大量生産をするうえで重要な生理学的特殊化の一つであることが示唆された。 次に, 女王の卵生産能力と脂肪体の核相倍加の進化的関係を探るために, ヤマトシロアリを含む系統的に離れた6種のシロアリに対し解析を行った。シロアリには大きく分けて, 単独の木材を利用するwood-dwellingタイプの種と, 複数の材を利用するforagingタイプの種がおり, これらの生活様式は女王の繁殖能力と密接に関わっている(図3)。Foragingタイプの種の女王は形態的に卵生産へ高度に専門化している。例えば卵巣発達に伴う腹部の膨満には, 節間膜の不可逆的な細胞成長を伴う。また, これらの種では, 繁殖個体と他非繁殖個体は全く異なる分化経路をたどるため, 女王と非繁殖メスは発生的にも違いが大きいといえ4646図2  頭部および脂肪体組織のフローサイトメトリーによる解析。それぞれ代表的なデータを示している。最小のピークが2倍体(2C)に相当する。4倍体は4C, 8倍体は8Cとして表す。図はNozaki and Matsuura 2016より改変して掲載した。2. シロアリ女王の繁殖力と脂肪体における核相倍加 多くの動植物の代謝活性の高い組織において, ゲノムセットを2つよりも多く持つ細胞, つまり倍数化した細胞が観察されてきた。一般にこれらの核相倍加(endoreduplication)は, 細胞サイズ, 代謝活性の上昇や細胞分化に関与することが示されている。卵生産に際し, 大量の卵黄タンパクを生産する昆虫の脂肪体も, 繁殖成熟に伴い倍数化することが一部の単独性昆虫で明らかにされている。そこで, シロアリ女王の活発な卵生産を支えうる生理機構の一つとして核相倍加に注目し, 女王や非繁殖個体の脂肪体細胞に対し核DNA量の分析を行った。 はじめに, 日本に広く生息するヤマトシロアリに対して, フローサイトメトリーを用いた倍数性解析を行ったところ, 女王の脂肪体組織は主に4倍体細胞や8倍体細胞から構成されており, 働きアリや兵アリのものよりも倍数化した細胞の割合が高いことがわかった(図2)。また, 様々な卵巣発達段階を示す女王を野外採集し, 脂肪体の倍数化度合を調べたところ,卵巣

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