図8 単為生殖による女王継承(AQS; asexual queen succession)と女王分化。図中の黒矢印は有性生殖を, 白矢印は単為生殖を表している。写真はヤマトシロアリ。 A AQS種における巣の拡大と繁殖虫構成。PK:一次王, PQ:一次女王, SQ:補充女王。B AQS種における分化経路。有性生殖によって生産された子のほとんどが働きアリ, 兵アリ, 翅アリへと分化するのに対し, 単為生殖によって生産された個体は補充女王へと分化するよう運命づけられている。図はNozaki et al. 2018より改変して掲載した。5050 多くのシロアリでは, 新しい巣は一組の雌雄ペアによって創設される。その後, 創設個体の死亡, もしくは繁殖力の低下に際して複数の補充繁殖虫が子供の中から出現し, 女王および王が置換される。複数の女王の存在は巣としての繁殖力を増大させるが, 近親交配が生じるために集団内の遺伝的多様性は減少する。しかし, いくつかのシロアリ種では, 単為生殖を巣内の女王継承にのみ用いることで回避している(図8A)。これまでに, このような繁殖システムはヤマトシロアリとその近縁種において3回, 高等シロアリにおいて3回, 計6回独立に進化していることが明らかになっているが, その進化プロセスはよくわかっていなかった。 単為生殖による女王継承システムは, 単為生殖能力だけでなく, 単為生殖によって生産された個体だけが図9 オキナワヤマトシロアリのメス有翅虫ペアで生じた偶発的単為生殖, 及び雌雄ペアによる通常のコロニー創設。図はNozaki et al. 2018より改変して掲載した。図10 偶発的単為生殖および有性生殖によって生産された子供の分化運命。図はNozaki et al. 2018より改変して掲載した。後継女王となるような分化制御機構も同時に必要とする(図8B)。本研究では, これらの2つの要素がどのような順序で獲得されたのかを考察した。ヤマトシロアリの近縁種ではあるが, この繁殖システムを持たないオキナワヤマトシロアリの単為生殖能力を調べたところ, 未受精卵の孵化率は約1%と極めて低く, 単為生殖能力としては祖先的な状態にあることが推察された。本種の偶発的な単為生殖によって生産された個体は全てメスであり, 有性生殖によって生産された個体よりも有意に後継女王へと分化する傾向を示した(図9, 図10)。これらの結果から, 少なくともヤマトシロアリ属においては母方ゲノムのみを持つ個体の女王分化バイアスが祖先的に備わっていたことが示唆された。単為生殖による女王継承システムは単為生殖能力の獲得と同時に進化した可能性がある。4. シロアリにおける単為生殖による女王継承への 進化プロセス
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