(実験3 ) 強制的に短絡(スパーク)を発生させ, その電気スパークによって断熱材に着火するのか確認する。 (結 果 ) 溶融し, 徐々に燃え始めることを確認でき66た。(写真20) 断熱材 以上のことから, 屋内配線は芯線が露出した状態で薬液を滴下するとトラッキング現象が発生し, 電気スパークによりシロアリの巣や断熱材に着火する可能性があることを確認した。 8. 出火原因について (1)放火について 出火箇所が1階トイレの壁内であり, 出火当時, 居住者が在宅していた。また, 出火箇所付近の焼損物に油性反応もないことなどから, 放火は考えにくい。 写真20 実験3の状況 また, 出火前日にシロアリ駆除業者が出火箇所付近の屋内配線を巻き込んだシロアリの巣に薬液を散布しており, 再現実験の結果, 芯線が露出した状態の屋内配線に薬液を滴下するとトラッキング現象が発生し, 電気スパークによりシロアリの巣に着火する可能性があることが確認できた。燃焼箇所 これらのことから, シロアリの食害により, 屋内配線の配線被覆がかじられて芯線が露出していた状況下で, シロアリの巣に薬液を散布したため, 屋内配線の芯線間でトラッキング現象が発生し, シロアリの巣に着火したことは十分考えられる。 (2)漏電について 出火前日まで停電等の電気関係のトラブルはなく, 電力会社からの資料(過去1年間の電気使用量)にも異常は認められなかったことから, 漏電による出火は考えにくい。 (3)屋内配線について シロアリの巣に巻き込まれた屋内配線を見分すると, 配線被覆の複数の箇所にシロアリによる食害や炭化, 芯線に電気痕と思われる溶融痕が確認でき, 配線被覆の炭化部分にはトラッキング現象の特徴でもある導通(グラファイト化)も確認された。 9. 結論 以上のことから, 本火災は1階トイレ壁内のシロアリの巣が屋内配線を巻き込んでおり, この巻き込まれた屋内配線がシロアリの食害により芯線が露出していたため, シロアリの巣に薬液を散布した際, 屋内配線部でトラッキング現象が発生し, 出火したものと判定した。 なお, 薬液を散布してから火災の発生まで, 半日以上の時間経過があるが, トラッキング現象で火災が発生するには時間を要することや, 着火物と思われるシロアリの巣が薬液で水分を含んだ状態であったことなどが影響したものと考える。
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