しろありNo.176
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1212た場合, 塗料中に含まれる弱アルカリ性物質により, 木材内部や表面に存在する水溶性成分(糖類・アミノ酸などの水溶性物質)栄養源と反応し塗膜を黄変させる。 木材成分とアルカリ物質との反応による呈色であり材に接触すると速やかに生じPH11以上になると急激に増大する。 現在商品化されている水性木材保護塗料は, 上述のアニオン系樹脂に防蟻剤を配合したものであり, 木材を塗装した塗膜表面には, 防蟻剤と木材中の水溶成分が混在すると推測される。これらからシロアリは, 塗装表面の木材水溶成分(栄養源)を餌として認識し切り込み, 引っ張り, 搔集め道標フェロモンをつけ食害すると思われる。(図1) 図1の機構によれば, 栄養源が木材中に留まり塗膜表面に移行しないようにすることで, 木材をシロアリが餌と認識しなくなる。すなわち, 水性木材用保護塗料を酸性にすると図1のような栄養源の移行は起こらないと推測し水性木材保護塗料・薬剤の設計思想の基本とした。(図2)13, 14) リ,イエシロア,アメリカカンザイシロアリでありシロアリの生態や摂取行動が研究され様々な防除方法が開発されている。4,5) 木材は,細胞壁を構成するセルロース,リグニン,ヘミセルロースが大部分であり,残りが抽出する成分である。 抽出成分は,水溶性のもの,溶剤可溶性のもの,極めて薄いアルカリ可溶のものがある。6,7) シロアリは,炭素源としてセルロースを主な栄養源として生活しており,それを体内(中腸,唾液腺)からセルラーゼを分泌・分解し糖類を得ることができる。窒素は老廃物である尿酸の分解・再利用や共生窒素固定細菌から得ることができる。 シロアリの職蟻(働き蟻)には目がないため味覚感覚により食物を選択している可能性があることが報告されており糖類や数種のアミノ酸など水溶性の高極性物質,さとうきび圧搾液,蜂蜜,蒸煮処理カラマツ材の熱水抽出物も摂食促進作用が知られている。8,9) ヤマトシロアリ,イエシロアリ,アメリカカンザイシロアリの3種類の基本的な摂取行動は,切り込み,引っ張り,搔集めであり餌を見つけると最初に大顎で木材片に対し全周的に切り込みを入れ次いで大顎と子顎を用いて木材片を保持し四肢を踏ん張って引張行動を行い,木材片を切り離し搔集め(一種の清掃活動)を行う。「道しるベフェロモン」が腹部より分泌され地面に付けながら巣に帰り仲間の職蟻がこの匂いをたどって餌を見つけるという習性がある。3. 水性木材保護塗料・薬剤の設計思想 シロアリの餌である木材中の糖類・アミノ酸など水溶性物質は, 水やきわめて薄いアルカリ性水溶液により木材表面に移行する。水性塗料を塗付することにより材内の水分移動が生じ抽出成分が流動して部分的に濃縮することが考えられる。10) 水性木材保護塗料・外装建材に使用される水性樹脂は,アクリル系エマルション, PUD(ポリウレタンディスパージョン)などがあるがそのイオン性はアニオン性であり中和剤としてアンモニア水やトリエチルアミンなどが使用されPH7〜9の樹脂溶液が大部分である。最低造膜温度(MFT(℃))を下げるために樹脂固形分の約6%を造膜助剤としてグリコール系溶剤を処方することから, これらの溶剤も栄養源であるセルロース等を木材表面に抽出させると思われる。11, 12) これらの水系クリヤ塗料を木材表面に塗装し乾燥し4. 抽出テスト カチオン性アクリル系樹脂,常温硬化型エポキシ樹脂を塗料化し, 杉の木材片に塗付後, 蒸留水に浸漬し蒸留水の着色の程度を確認した。 PHが酸性側にあるカチオン系塗料を塗付した木材の蒸留水は, ほぼ無色透明で明らかに木材片(無塗装)やアニオン系塗料を塗付したものと比較し着色が少なくアニオン系塗料を塗付したものは, 木材(ブランク)より黄色く着色した。(表1) UVA吸収剤塗料を含有するアニオン系アクリルシリコンクリヤ塗料を木材(杉・SPF)に1コートした塗板は, カチオンシーラー(PH4.6)を下塗りに塗装した2コートした場合に比較し, 明らかに黄変している。塗膜の黄変の程度は, アニオン系アクリルシリコンクリヤ塗料のPHが大きくなるとともに大きくなり, 塗料中の弱アルカリ水が木材中の水溶性成分を塗膜表面へ移行しているがカチオンシーラー(PH4.6)を下塗に使用した場合には黄変はなく水溶性成分の移行が少ないことが確認できた。(表2)

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