しろありNo.176
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****3838まって採集できるような生息地は知られておらず, 人工飼育も確立していないため供試虫として用いることが出来ていない。人工飼育を行うためには生体の捕獲が必要であるが, 幼虫は建造物の材内にいることと, 成虫は発生期間が短いことから目視調査での捕獲には限界があった。そこで, 文化財建造物における加害種の分布調査の新たな手法としてFIT(Flight Interception Trap: 図6)の実用性評価を行った。その結果, シバンムシ科甲虫のうち大型のシバンムシ科甲虫を生きたまま捕獲する場合は, 設置後1週間から2週間に1回捕獲器を交換する頻度で可能であることが判明した24)。また捕獲個体は, 捕虫テープとは異なり粘着物質がついていないため, 同定作業はより容易に行うことができた。FITを用いて生きたままシバンムシ科甲虫を捕獲することが可能となったことは, 飼育方法が確立していない害虫の生態や生活史の解明にもつながることとともに, 殺虫効果判定等の「供試虫」として使用することができ, 今後の文化財分野における虫害対策の研究に繋がるものと評価できる。 シバンムシ科甲虫の生息数モニタリング調査において, これまで目視や捕虫テープで捕獲されたものは, 学術的に信頼のある種の記載情報(形態的情報, 生態的情報)と比較し, それと一致するかどうかで同定作業を行ってきた。しかし, 形態的な特徴が類似する甲虫も多く, 昆虫分類の専門知識を有する者でも正確な同定が困難な場合や時間を要する場合もある。また, 完全な形を保ったままの個体ではなく, 形態が著しく損傷した個体, 歩脚や翅などといった体節の一部しか得られない場合, 形態的特徴が乏しい卵や幼虫のみしか得られない場合もあり, これらからでは形態的特徴を基に同定を行うことは困難であった。このような課題を克服する技術として分子生物学的な手法を利用したDNAバーコーディングに着目した。DNAバーコーディングとは, 特定領域(COI遺伝子部分配列)のDNA塩基配列(DNAバーコード, DNA barcode)を種の情報を盛り込んでいる識別子として利用して, DNA塩基配列の決定と既知種のDNA塩基配列で構成されているデータベースとの照合から種の同定を行う手法である。DNAバーコーディングを応用すれば, 形態的特徴に依存することなく, 体節の一部からDNAを抽出し, DNA塩基配列情報に基づき種を同定することが可能になることが期待される。DNA塩基配列情報に基づき同定を行うDNAバーコーディングを日光の文化財建造物で被害をおよぼした5種のシバンムシ科甲虫の同定に適用するため検討した。その結果, クロトサカシバンムシ, チビキノコシバンムシ, アカチャホソシバンムシがアメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information[NCBI])のデータベースに登録されていないことを確認し, 本研究で得られた情報を基に新規に登録を衝突部(灰色部分)漏斗状に包み先端を切りとり,捕獲器をはめる。捕獲器開口部が8.5cmのプラスチックカップに漏斗(細部8mm)を取付。130cm100cm図6 調査に用いたFITの模式図(左)と設置の様子(右)

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