しろありNo.176
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42部にわずかに存在するのみである1, 12)。 このような知見に基づいて, 好気性雰囲気でのシロアリ腸内微生物を用いた水素生産13-15)やシロアリ活動の検知を目的としたシロアリが放出する水素の検出16)が研究されてきた。しかしながら, 嫌気性雰囲気でのシロアリ腸内微生物による水素産生に関する報告は知られていなかったため, 著者らはシロア腸内微生物を用いた嫌気性雰囲気での水素産生について検討した。ここでは, ヤマトシロア腸内微生物を用いた水素産生に関して著者らが報告した結果17)を中心に紹介する。本研究では, ヤマトシロアリの後腸を破砕した液を, 酸素濃度0.0%の嫌気性雰囲気で培養し, 発生した水素とメタンを定量した。同様の実験を酸素濃度21%(通常の空気)の好気性雰囲気で行い, 嫌気性雰囲気での水素とメタンの産生量と比較した。さらに, 木材ヘミセルロースを構成する単糖類を培養液に加え, 同様に水素とメタンの産生量を定量し, 炭素源の影響を検討した。また, 細菌の16S rRNA遺伝子のV3-V4領域の配列を解析することで18), ヤマトシロアリ腸内から分離した水素生成細菌の同定を試みた。 近畿大学農学部 板倉 修司Research Topics1. はじめに シロアリが餌として消化管内に取り込んだ木材などの炭水化物が代謝されると, シロアリの体外へ水素とメタンが放出される1-4)。水素やメタンの産生には, シロアリ腸内に生息する微生物が関係している。下等シロアリの腸内には, 多様な細菌類, 原生生物が生息していて, 宿主シロアリと共生関係を構築している。これらの細菌−原生生物−シロアリ3者間の共生関係は詳細に研究されていて, セルロース消化における共生微生物の役割は次の様に説明されている。イエシロアリやヤマトシロアリのような下等シロアリが摂食した木材中のセルロースの一部は, シロアリの前腸と中腸でシロアリ由来のセルラーゼとグルコシダーゼの作用で単糖であるグルコースへ糖化されたのち中腸壁を通して吸収され, 残りの未消化セルロースは後腸に到達する5-7)。前腸と中腸で部分的に消化されたセルロースは, 後腸に共生する原生生物の細胞内に取り込まれ, 原生生物由来のセルラーゼなど諸酵素による糖化と発酵により, n(C6H12O6)+n(2H2O)→n(2CH3COOH+2CO2+4H2)の反応で, 1分子のグルコースあたり, 酢酸2分子および2分子の二酸化炭素と4分子の水素に変換される8)。産生された二酸化炭素と水素は, 原生生物の細胞表面に付着共生するスピロヘータなど還元的酢酸生成細菌により2CO2+4H2→CH3COOH+2H2Oの反応で酢酸に変換され9), 産生された酢酸塩は後腸壁から吸収されシロアリの栄養源となる10)。また, イエシロアリの共生原生生物Pseudotrichonympha grassiiの1細胞内に数万個も共生している窒素固定細菌が, 空中から固定した窒素をもとに合成したアミノ酸をシロアリに供給する例なども知られている11)。原生生物など腸内共生微生物によるセルロースやヘミセルロースの糖化・発酵により多量の水素と二酸化炭素が産生されるため, シロアリの後腸内は水素や二酸化炭素で満たされている。シロアリの後腸内は嫌気性雰囲気にあり, 後腸の中央付近での酸素分圧はほぼ0 mbarに保たれ, 酸素は腸の辺縁2.2 培養液の調製 職蟻20頭の肛門から精密ピンセット(K-3 GG, KFI)を用いて腸全体を引き抜いた。精密ピンセットで切断した後腸を, 1.5mL微小遠心管(TreffLab)中の1mL HP培養液(0.1% BactoTM tryptone, 0.05% BactoTM yeast extract, 0.05% NaCl, 0.01% Na2HPO4)19)に加えた。後腸組織を1.5mL用ホモジナイザーペッセル(アズワン)を用いて破砕した液を, 19mLのHP培養液を入れた50mL遠心管(Corning)に移し, 20mLの培養液2. 材料と方法2.1 シロアリ 煙樹海岸の松林(和歌山県美浜町)で食害中の枯れ枝とともに採集し, 実験室で約半年間飼育したヤマトシロアリの巣から職蟻を採集した。研究トピックスヤマトシロアリの腸から分離した微生物による水素産生

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