Research Topics6組のアメリカカンザイシロアリ用マイクロサテライト遺伝子座増幅用のプライマー対(FAM 07S-7, VIC 28S-10,NED 28T-12,PET 28T18-2)3,4)を用いてPCR増幅を行った。増幅産物の塩基長をABI PRISM 3130 Genetic Analyzerで読取り, Genetic Data Analysis(Ver.1.1)を用いて解析した。各地で採集した個体群を分集団(subpopulations)とみなし, FIT(集団全体での近交係数), FIS(分集団内での近交係数), FST(分集団間の近交係数)を求め, 系統樹を作成した。 近交係数を表2に示した。FISが負の値であり, 集団全体で近交係数が高くない結果となった。地下シロアリReticulitermes flavipesで報告されているFIS=0.265), あるいは湿材シロアリZootermopsis angusticollisで報告されているFIS=0.1156)と比較しても低い近交係数であり, アメリカカンザイシロアリでは近親交配の可能性は低く, 異なるコロニー間での交配が頻繁に起こっているものと推測される。FISは幼形生殖虫の個体数に関連する係数であり, 負のFISの値(-0.229~-0.035)は数頭の幼形生殖虫の存在を示唆している5)。FSTの値は0.389~0.465であった。集団内での生殖虫世代数の増加に伴いFSTが増加すると推定されており5), 複数の幼形生殖虫の存在を示唆する負の値のFISと矛盾しない結果が得られた。近畿大学農学部 板倉 修司研究トピックス日本国内のアメリカカンザイシロアリ系統解析2.2 ゲノムDNA抽出とマイクロサテライト解析 仙台市(6頭), 東京都(9頭), 尼崎市(8頭), 神戸市(6頭), 西宮市(10頭), 粉河町(30頭), 古座川町(24頭), すさみ町(14頭), 延岡市(19頭), 熊本市(13頭)およびカリフォルニア州(10頭)で採集したアメリカカンザイシロアリ擬職蟻あるいは有翅虫の頭部を切断し, DNeasy Tissue Kit(キアゲン社)を用いて, ゲノムDNAを1頭ずつ抽出した。これらのゲノムDNAを鋳型とし, 蛍光(FAM, VIC, NED, PET)標識した41. はじめに アメリカカンザイシロアリ(Incisitermes minor (Hagen))の被害が日本の半数を超える都府県で報告されている1)。日本国内でアメリカカンザイシロアリの被害が1976年に初めて報告2)されてから45年が経過する間に, アメリカカンザイシロアリが国内で拡散した経路, また海外から日本へ持ち込まれた頻度を, 吉村先生の研究グループと共同で研究した3, 4)。この研究では, 国内各地と米国カリフォルニア州で採集されたアメリカカンザイシロアリを主に吉村先生からご提供いただき, マイクロサテライトマーカー解析を実施した。2. 材料と方法2.1 シロアリ 和歌山県古座川町(2009年8月), 和歌山県すさみ町(2013年12月), 宮崎県延岡市(2011年3月)でアメリカカンザイシロアリの擬職蟻を採集し, -20℃で保管した。熊本県熊本市(2007年11月)で採集され研究室へ送付されたアメリカカンザイシロアリの有翅虫を-20℃で保管した。また, 宮城県仙台市, 東京都中野区, 兵庫県尼崎市, 兵庫県神戸市, 兵庫県西宮市, 和歌山県粉河町(現 紀の川市), 米国カリフォルニア州で採集され, アルコールに浸漬された状態で研究室へ送付されたアメリカカンザイシロアリの擬職蟻を4℃で保管した。3. 結果と考察 採集地ごとの平均試料数(n), 多型遺伝子座率(P), 遺伝子座あたりの平均対立遺伝子数(A), 多型遺伝子座あたりの平均対立遺伝子数(Ap), ヘテロ接合体率期待値(HE), ヘテロ接合体率観察値(HO)を表1に示した。東京都で採集した9個体のマイクロサテライト型がすべて同じであったため, 平均対立遺伝子数が1となり, ヘテロ接合体率の期待値と観察値がともにゼロとなった。分析する個体数を増やせば各遺伝子座で異なるアレルを持った個体が現れる可能性が高く, 再解析によって系統樹の形が変わるものと考えられる。
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