Research Topics元筑波大学 土居 修一102 )複数の杭から調製した腐朽部の忌避効果には差が認められた。これは忌避物質の量的差異に基づくのではないかと推定された。研究トピックス吉村先生を偲んで―Fibroporia radiculosa腐朽材に対するシロアリの摂食忌避―はじめに 吉村先生との共同研究は, 1995年頃にカラマツ蒸煮材のシロアリ摂食促進に関して行ったのが最初である。この研究を通じて, 器具の調製の仕方からシロアリの生態に関することなど, 非常に多くのお教えをいただいた。その後, たびたびシロアリや木材腐朽菌にかかわる共同研究にお誘いいただき, 当協会での各種の仕事でも多くの助けをいただくようになった。公私ともに大変お世話になりました。ここに深甚なる謝意を込め, 改めて弔意を表したいと思います。 さて, ここで紹介するのは吉村先生との共同研究を行っている時に考えついて始めた研究である1-2)。シロアリと腐朽材との関係に関する研究論文は多数あるが, 多くは腐朽によって摂食が促進されるという報告である。ところが日本でも東南アジアでも, シロアリが多く生息するフィールドに出てみると, シロアリが全く食害していない腐朽材をしばしば見かける。特に白色腐朽材でそういう傾向があるように感じる。これまでの関連研究を調べてみると, ステークテストで白色腐朽したものはシロアリの攻撃を受けない3), あるいはシデロフォラという褐色腐朽菌キチリメンタケ(Gloeophyllum trabeum)の腐朽に関与する細胞外代謝物がイエシロアリの摂食を阻害するという報告4)などがあるが, 摂食促進に関する報告数に比べるときわめて少ない。最初は白色腐朽菌をターゲットにして探索したが, なかなか忌避効果が観察されず, 結果的にここで述べる褐色腐朽菌が対象となった。 鹿児島の京大生存圏野外試験場で腐朽材を探索した時に, 各種の試験で用いて廃棄したアカマツ杭の中に黄色の菌糸で覆われ腐朽した杭を見つけた。これを詳しく観察すると菌糸の繁茂している部分にはシロアリの食痕が見られず, 健全にみえる部分ではシロアリが盛んに摂食していることがわかった。これを研究対象にしてみようと始めたのがこの研究である。腐朽した部分と健全な部分でのシロアリの行動 一本の杭でヤマトシロアリReticulitermes speratus(以下シロアリ)の食害がなく腐朽した部分(以下、腐朽部)と食害があって健全にみえる部分(以下、健全部)が混在していたので, それらを切り分けてシロアリに対する選択摂食試験を行った。水分を含む砂を入れた容器中に腐朽部と健全部から調製した木片を置いて, そこにシロアリを投入, シロアリの行動を経時的に観察した。投入直後は, ほとんどのシロアリが腐朽部に集中するが, 3日後にほぼすべてのシロアリが健全部に移動して, その後14日目までこの状態を維持した。 選択摂食試験で木片のシロアリによる食害量を比較した時には以下のような結果を得た。1 )腐朽部や健全部を風乾あるいは加熱乾燥すると, 腐朽部のシロアリ忌避効果はなくなり, 両部の質量減少率に有意差はなかった。この結果は, 忌避に関与する物質(以下, 忌避物質)が乾燥や加熱によって失われるか変質することを示唆する。分離した菌の同定 腐朽した杭から, 黄色の菌糸, あるいは軽度に腐朽した部分を採取して純粋分離を行い, 数株の菌を得た。それらのDNAからPCRで増殖後リボソームITS領域を読みBlastによって分離菌を同定した。また, PDA培地上の菌叢の状態を観察して文献5)記述との同一性を照らし合わせ, 得られた菌株すべてが褐色腐朽菌Fibroporia radiculosaであると確定した。したがって, 杭の腐朽を引き起こしているのはこの菌であると判断した。分離菌によって実験室的に腐朽した材に対する摂食試験 野外から採取した杭の腐朽部にはこの腐朽菌の代謝産物だけでなく, 様々な物質が付着していてそれが摂
元のページ ../index.html#16