(ABWの主要産地の一つ)では, 粘土質の多い埴土(Clay), 埴質壌土(Clay Loam)から砂質壌土(Sandy Loam)まで幅広い土性にある6,7)。周囲植生と照合すると, 所謂ミオンボ林だけでなく, 粘土質が多く排水性不良による季節的冠水が生じる草原地帯に隣接して群生傾向があることがわかる。実際に筆者らが林内にてABWの立地環境を調べたところ, 同種が極めて多様な立地, 土壌環境に適応して生存しており, 一般に植物の生育に不利とされる土壌条件(アルカリ性で炭酸カルシウム結晶を多く含み, 極めて重粘で硬い土壌)であっても生育できることで, 他樹種の少ない場所に選択的に生育する傾向があることが示唆された6,7)。 このように, 現地の天然林に分布する主要有用樹種ABWの生態を明らかにしていく中で, 人間による土地利用や各種森林生物との関連を切り口とした研究を進めている。その関連生物の一つとして, シロアリにも着目しているところである。一般に, 熱帯・亜熱帯生態系において, シロアリは主要土壌大型動物バイオマスであり, リター分解, 土壌物質循環, 植生などに影響を与える。アフリカは, 約660種以上のシロアリが生息すると言われるが, 未だ数多くの新種が存在すると言われる地域である8)。アフリカでは主にMacrotermitinaeやTermitinaeが多く, タンザニアではミオンボ林だけでなくサバンナ(乾燥疎林, 低木の草原地帯)地域にも多くのシロアリが生息している9)。特に土壌中の養分量に乏しいサバンナでは, シロアリによって建設された塚における養分固定によって周囲の草本類の成長促進効果があると考えられており10), シロアリの生態は周囲の動植物生態に影響を与えていると言える11)。 リンディ州キルワ県の海岸線から内陸に100 km程度進んだところに, ABWの主要産地であるN村があり, 居住区, およびコミュニティ森林に向かう林道沿いに多くのシロアリ塚を見ることができる(図1, 図2)。中には, 高さ3mを超えるものもある。また, 非常に限定的な分布だが, 図3のように高さ30 cm程度の明らかにResearch Topicsヤマハ(京都大学生存圏研究所で博士学位取得) 仲井 一志16研究トピックスミオンボ林内におけるシロアリと希少樹木の立地環境との関連1. はじめに 吉村先生に初めてお会いしたのは, 2006年の春先であった。2007年から修士課程の学生として研究室でお世話になり, その後10年以上公私に渡りお世話になった。近年, 筆者らは, 東アフリカのタンザニア原産の希少木材の持続的育成を目的とした森林保全, 研究活動を進めている。林でのデータ収集, 植栽技術の実装など, タンザニアを主なフィールドとする研究活動を進める中, 2019年9月に吉村先生と共に現地調査に赴いた。現地での森林調査では, 各森林のプロット毎木調査, 土壌サンプリングなど熱帯の乾季の日差しの中, 早朝から車で森を走り回りながら調査地を選定していく。期間中は近隣農村にテントを設営しての宿泊, 週末にホテルに戻り休養という, 体力的に過酷な調査であったが, 数々のエピソードを残して無事に終了した。当時の調査は, 今でも心の中に強く残っている。2. ミオンボ林とシロアリ タンザニアでは, ミオンボ林(Miombo woodland)と呼ばれる半乾燥林が分布している。ミオンボ林は3種のマメ科の中高木(Brachystegia, Julbernardia, Isoberlinia)が優占する植生と定義されており1,2), タンザニアやモザンビーク, マラウィ等で広く確認されるアフリカを代表する植生の一つである3)。この森林を代表する樹種であるアフリカン・ブラックウッド(ABW)(Dalbergia melanoxylon)が, 筆者にとっては最も重要な研究対象である。ABWはタンザニアの国木(National tree)であり, その心材は気乾密度1.1~1.3 g/cm3で, 黒紫色を呈した特徴的外観と優れた音響物性によりクラリネットやオーボエといった木管楽器の管体材料として世界的に使用されている。楽器材としての木取り材は概ね20,000~30,000USD/m3で取引されていることから4,5), 同種の有用性と限定的な需要が理解できる。 ABWの立地環境における土壌に焦点を当てると, タンザニアの南東部に位置するリンディ州キルワ県
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