Research Topics琉球大学大学院教育学研究科 杉尾 幸司図1 スギオシロアリの加害進行状況(上)と各段階での被害の実例(下)(Sugio et al. 2018を改変)黒色の部分は, 樹木内の営巣範囲。ステージ1:被害範囲が2次分岐枝に留まっている, ステージ2:被害範囲が1次分岐枝までに留まっている, ステージ3-1:被害範囲が幹に侵入しているが, 侵入地点より上の部分はまだ枯れていない, ステージ3-2:被害範囲が根に近くまで達していて, 幹の上部が枯れている。以上ある調査地点(n=14)において, 以下の方法によって行った。まず, 各地点において, スギオシロアリによる被害を受けているサクラの木(被害木)を無作為に1本選び, この被害木に最も近い位置にあるサクラの木が, スギオシロアリによる被害を受けている木(被害木)か, それとも, 被害を受けていない木(非被害木)かを確認した。そして, 無作為に抽出した被害木に最も近い位置にある木が被害木である調査地点の数を算出した。また, 比較のために, スギオシロアリによる被害を受けていないサクラの木(非被害木)を各調査地点で無作為に1本選び, 上述の方法を使用して, この無作為に抽出した非被害木に最も近い位置にある木が被害木である地点の数も算出した。調査を行った2本の木(無作為に選ばれた, 被害を受けている木, または被害を受けていない木と, この木に最も近い木)の間の距離は, どの調査地点でも, 常に約10m未満であった。最後に, 被害木に最も近い位置にある木が被害木である調査地点の割合と, 非被害木に最も近い位置に19研究トピックススギオシロアリによるカンヒザクラの加害状況とその生態的特徴1. はじめに シロアリは, 住宅や建築物などの建築用木材や木造建築物の主要な害虫として知られているだけではなく, 森林や都市部の樹木などの生きた植物にも被害を与えている1)。日本においても, 果樹や庭木などのシロアリ被害が報告されており, 被害の拡大も予測されているが, 生きている樹木のシロアリ被害についての研究は十分に行われていない2)。乾材シロアリであるレイビシロアリ科のNeotermes属は, 国内では琉球諸島に分布するコウシュンシロアリ(Neotermes koshunensis)が知られていたが, 分子・形態学的手法を用いた系統的な研究により, 琉球諸島に分布する種は, 新種のスギオシロアリ(Neotermes sugioi)であることが明らかになった3)。本種は, カンヒザクラ(Cerasus campanulata)やデイゴ(Erythrina variegata)などの樹木に営巣する事が知られており4), 生きた樹木への加害という観点で重要な研究対象となる可能性があるが, その生態的特徴はあまり知られていない。そのため, 本稿では, スギオシロアリによるカンヒザクラの加害状況とその生態的特徴に関する研究5)から得られた知見について報告する。2. 調査方法 2016年3月から12月にかけて, 沖縄島中南部の36地点において, 合計1,076本のカンヒザクラを対象に調査を行った。各調査地点において, 樹木の目視調査および枯死部の部分採集調査を丁寧に行い, シロアリの存在とその種類を確認した。スギオシロアリによる被害の進行率は, 図1に示した3レベルの被害指標に基づいて分類・記録し, 加害している種が, イエシロアリ(Coptotermes formosanus)などの地中シロアリであった場合は, 被害を受けている事だけを記録した。調査地と調査地内の各樹木の位置は, GPSユニットを使用してGPS座標情報を記録し, データ解析に用いた。また, 調査サイト内のスギオシロアリによる被害樹木の分布パターンの推定は, 加害されたサクラの木が2本
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