しろありNo.177
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Research Topics京都大学生存圏研究所 畑  俊充22 吉村先生は, 持続可能な地球環境時代におけるシロアリ防除法のあり方がどうあるべきか, 考え方の変革を常に探求されてこられました。先生の研究・教育・国際的な活動により得られた成果と人的ネットワークは卓越しており, 学界に大きく貢献する代表的研究者として高く評価されました。大学教育や大学内の専門を超えた学際融合にも尽力し, 教育にも極めて熱心に取り組み, 学外の大学, 学会や国際共同研究や啓もう活動においても, 著しく活躍されました。先生の卓越した人的ネットワークと研究・教育・国際的な活動により得られた成果と学界への大きな貢献が高く評価され , 死亡叙勲(瑞小) および叙位(従四位)を受賞されました。吉村先生の生前の功績に敬意を表し, 2021年7月7日に塩谷京都大学生存圏研究所所長からご遺族に伝達しました。 先生は京都大学での学部, 大学院および京都大学木材研究所での研究をまとめて平成7年3月23日に「イエシロアリの栄養生理における原生動物相の寄与」で京都大学より博士(農学)の学位が授与されました。吉村先生は, 博士論文においてイエシロアリの木材分解における後腸内の原生動物相の寄与を明らかにし, シロアリの栄養生理に関する研究に大きな貢献を与えました。 先生は, シロアリと微生物との相互作用を利用した新しい白アリ防除システムの開発を目指して, 昆虫寄生菌の殺蟻抗力と, 木材分解における消化管中の微生物相の役割について検討されました1)。その結果, シロアリは原生動物の酢酸のような発酵産物を吸収しエネルギー源として利用していることがわかりました。さらに, シロアリの生態とその防除方法について検討を行い, イエシロアリは中程度の含水率の試験体を好み, 150~160%という高含水率の木材は気乾状態の木材よりも摂食されない傾向がありました。環境調和型のシロアリ防除システムの構築においては, 理論的な解析から, イエシロアリにおいては1.9mm~2.9mm直径の粒子が物理的バリアーとして効果的であるとの結果を得ました2)。さらに, より球形に近い物質が高い性能を有することや, 粒子表面の平滑性も重要な要因であることが明らかとなりました。シロアリが木材や木質材料になぜこれほどの激しい被害をもたらすのかを解明することを, 吉村先生は研究活動における問題意識として常に持っておられました。シロアリ防除法がどうあるべきかを解明するために, 多くの人々と共同でシロアリの生態とその防除方法に関する研究を行ってこられました。そして, シロアリの食害生態, シロアリの接触行動, 昆虫寄生菌類を用いた生物的防除に関する研究を通じて, 食害生態に関する最新の基礎的知見と新しい知見を統合し, 総合的な白アリ防除システムの構築を行ってこられました。 先生の教育分野の業績として, 学際融合教育研究推進センターの熱帯林保全と社会的持続性研究推進ユニットのとりまとめを務め, 京都大学における専門分野を超えた学際融合研究の推進に努められました。学部科目の「木材保存学」および「森林科学概論 B」の講義と大学院科目の「居住圏環境共生学」の講義においては, 吉村先生と私との二人で協力して学生を教育してきました。 資源の枯渇問題などから木質バイオマスの役割が大きくなっていくことから, 「居住圏環境共生学」の重要性は今後増加すると考えられます。シロアリなどによる木材の劣化を防ぐことは, 単に木材の有効利用というだけでなく, 木材の利用のサイクルを維持するために重要です。しかし, 効力の大きい薬剤を無制限に使用すれば, 環境面からも健康面からも, 人間にとって有害になる可能性が大きいです。そこで, 居住圏環境共生学から, その両方のバランスをとり利用する人間にとっても無理がないかたちで, 生物による木材劣化に対する対策をとれるような方法を確立していくことが求められます。広義の生態系の問題に取り組むことが必要になると思われます。環境に対して人為的な影響を与えることは避けられませんがその中で, どうすれば, 人間以外の他の生物, および環境に大きな負荷研究トピックス居住圏環境共生分野における吉村先生との共同研究

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