をかけることなく, 人間らしく生きることができるかということを, 具体的に示していく必要があります。居住圏環境共生学はこの対立しかねない2つの事柄の調和を図るための有用な技術や知識を提供することだと考えています。なぜなら, 人間が勝手気ままな生活を送り環境を軽んじれば, 将来必ずその代償を払うことになるからです。 先生とは, 「5種類の熱帯早生樹からの木材の急速熱分解によるグリーン芳香化合物の生産」というテーマで, 共同研究を行いました。化石資源の枯渇や環境劣化といった問題を解決するために, 未利用植物資材から有用化学物質を生産することが求められます。本研究は, 熱帯産木質バイオマスから得られる液化物および熱分解残渣を有用物質として活用することを目的としました。インドネシア東ジャワ州のコミュニティ林で栽培されているジャボン(Antocephalus cadamba), センゴン(Paraserianthes mollucana), バルサ(Ochroma sp)の樹木の下部からディスク状試料を採取しました。さらに, インドネシアのジョグジャカルタにあるガジャマダ大学のワナガマ実験林で栽培されたマンギウム(Acacia mangium)とユーカリ(Eucalyptus pellita)の2種の木材を使用しました。ディスク状試料を粉砕して, 金網スクリーンでふるいにかけ, 0.25~0.42mmの粒度範囲の粉末を得ました(40メッシュのふるいを通過し, 60メッシュのふるいに保持されています)。触媒はZSM-5を使用しました。これらの木質バイオマスに対し触媒を加え得られる有用化学品を含む熱分解液化物をPy-GCMSにより確認しました。ユーカリの急速熱分解における触媒プロセスでは, ZSM-5の存在下でレボグルコサンやフルフラールなどの含酸素化合物の大部分が芳香族化合物に変換されました。バルサ材の急速熱分解では, 表面触媒上での生成するコークの触媒作用によりレボグルコサンとフルフラールから芳香族化合物が生成されることがわかりました。関連の文献3-6)を下記に示します。 先生が主導されてきた居住圏環境共生分野において私は, これまで研究を重ねてきた熱分解残渣を, 人と環境にやさしいシロアリ防除法に活かせないか思考してきました。さらに, シロアリから木造住宅を守るために薬剤処理されたシロアリ防除剤処理木材の安全廃棄の研究に携わり, 熱分解残渣の減量化と熱分解残渣内の有毒元素の閉じ込めを同時に可能とする熱分解処理技術の応用開発を進めてきました7,8)。その研究過程で, 栄養源を含まない木質炭素材料に, シロアリ防除法につながるポテンシャルを見出しつつあります。一方, 以前研究を行ったシロアリ防除処理木材中において, CCA薬剤に代表される銅・クロム・ヒ素化合物が熱分解残渣内のウルトラミクロ孔を含む炭素六角網面の積層体により閉じ込められているのを電子顕微鏡学的解析により発見しました7)。熱分解残渣の再利用技術が確立されれば, シロアリ防除剤のケミカルフリー化と未利用資源の再利用の両面で新たな環境負荷低減につながると思われます。 先生が尽力されてきた, 居住圏環境共生学の確立に一歩でも近づけることが, 今後私に与えられた役割と感じています。さらに, 居住圏劣化生物飼育棟/生活・森林圏シミュレーションフィールド共同利用専門委員会メンバーの方々による本施設利用により展開する研究とその成果の進展, 及びベースとなる供試昆虫の安定的供給といった, 関係各機関の皆様方の期待に応えられるよう全力を傾ける所存です。昆虫類の飼育に関わるメンテナンスに時間と努力を集中したいと思います。そして, 生存圏研究所という場で, ミッション活動を通じた共同研究とともに, 学生や同僚とともに力を合わせて居住圏環境に関する重要な課題解決に向けた取り組みにまい進します。こうした課題解決のためには, 個々人が問題意識を持つことが求められます。一方, 研究活動で得られる研究上の独創性は, 研究室で活動している人間関係そのものです。これまでの経験を生かし, 仲間と協力して研究を進める面白さを学生に伝えることが, 私の務めと考えています。図1 化石資源から, 熱帯バイオマスへのシフト2323
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