しろありNo.177
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Research Topics広島大学大学院先進理工系科学研究科建築学プログラム 森 拓郎28 しろあり誌にシロアリ食害材を用いた接合性能に関する研究1-3)を3つ<研究トピック>として報告をさせてもらい, 地震被害と木造建築に関する報告4-5)も2度執筆させていただいた。加えて, シロアリ食害材の部材強度特性に関する研究6), シロアリ食害材に打ち込まれた木ネジ接合部の耐力性能に関する研究及びその推定方法の提案などの研究7)などを実施した。これらの研究を始めるきっかけは, 吉村先生からシロアリの食害を受けているお堂を移設したいが出来そうか見て欲しいという依頼を受けたことに端を発している。2007年だったか, 吉村先生と簗瀬先生と一緒に, 和歌山市へお堂を見に行ったことが思い出されます。この調査に行く車の中で, 私が吉村先生に「シロアリ食害と木材の強度って研究がされていて, 指標があるんですよね」とたずねたところ, 吉村先生から「そういうのがないので森さんの判断がいるのよ」って言われました。これが, このシロアリ食害材, 劣化した木材と残存強度特性に関する研究との出会いでした。その後, 2009年に吉村先生の推薦により, 日本しろあり対策協会から, 「しろありの調査研究賞」を簗瀬先生と合同でいただきました。このときに, 吉村先生から, 「シロアリや腐朽など木材劣化に関する研究」を続けてもらえたらと言ってもらいました。この言葉は, 私にとっての金言となりました。 さて, 地球環境問題への高まりの中, 木材利用の促進や木質構造の長期間の使用というのが, 街に炭素を固定化することが注目されている。このために, 木質材料や木質構造物を長期間使い続けられるようにすることが重要となり, この課題の1つは木材の生物劣化による強度特性の低下であるといえる。そのため, この木材の生物劣化による強度低下とその推定が重要であり, その方法を示していくことが不可欠となる。現在, この研究分野は, 木質構造の研究分野の中でも必要な分野の一つとして注目されており, 筆者は特に超音波伝播速度及びピロディン打ち込み深さと残存耐力性能についての研究を実施している。現在, 本研究の一部も収録された「既存木造建築物健全性調査・診断の考え方(案)」が, 日本建築学会の材料施工委員会内の小委員会にて執筆されている。まだ出版されてもいない本について書くことははばかられるが, 本書が改訂されてゆくにあたり, 使用してみた方々からの意見, その後継続して実施している研究の成果やこれから進められる研究成果が収集され, より一般に使われるようになっていくと考えている。 私の研究としては, 木造住宅の残存している性能を評価する上では欠かせない, 接合部分の研究から, さらに発展して, 耐力壁と言われる壁の性能評価と研究を拡げている。実際に, シロアリに食害された壁を作るには至っておらず, 腐朽菌に壁の面材や筋かいが侵された際の性能評価を実施しており, その損傷と残存している性能の関係を調べているところである。これらの評価が, 今後, 住宅の残存している強度性能の評価に利用されていくようになればと考えている。加えて, 生物劣化を受けるメカニズムから, 耐久性を高める技術へとつなげていければなお良いと考えている。特に, 大型の木質構造が増えつつある今, 木材を長期間安定して使えるようにすることは非常に重要となると考えている。今後, これらの研究にも携わっていければ, 木質構造の分野の発展に寄与でき, 木材の利用促進にも寄与できるものと考えている。 私の研究範囲は, シロアリの食害材と残存強度特性の研究を始めたことをきっかけに, 腐朽材を含めた木材劣化と残存強度特性の研究へと広がり, そして木材の劣化要因の研究へと広がっている。これらの研究は, 科学研究費補助金(若手研究(A)21686053, 基盤研究(B)(一般)26289191, 18H01589), トステム財団, 京都大学生存圏研究所全国共同利用研究(DOL/LSF)及び簗瀬佳之准教授(京都大学), 田中圭准教授(大分大学)と学生諸氏のおかげで実施することが出来ました。本当にありがとうございました。そして, 今考えていることも含めて, 吉村先生への感謝の気持ちに加えて思い出話を書かせてもらいました。本紙に研究トピックスシロアリ食害材の強度特性に関する研究の出会いと展開

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