Research Topics本報はJournal of Wood Science(2020)66:84に掲載済みのものです宮崎県木材利用技術センター 須原 弘登約160 mg)をランダムに配置し, イエシロアリ3.5-4g(1200~1300頭)を投入し, 適宜霧吹きで脱イオン水を噴霧しながら食害試験を行った(n=7)。無処理の試験体が3割程度食害された時点(14~25日)で試験を終了し, 試験体を絶乾後, 質量を測定し食害量を求めた。今回の検討ではシロアリの等張電解質液濃度とされる0.3%(w/v)4)をモル濃度換算した0.05 mol/Lを処理濃度として用いた。また食害促進効果の報告5)があるL-グルタミン酸およびこれと同様に旨味成分として機能する可能性のある5’-グアニル酸と5’-イノシン酸は既報に従いL-グルタミン酸の有効濃度の0.01 mol/Lを用いた。食害の有意差については, 多重比較法のHolm法を用いて検定を行った。強制摂食試験:選択摂食試験で食害促進効果の見られた処理について, JIS K 1571(室内試験表面処理用)に順じ、試験当たり職蟻100頭, 兵蟻10頭を用いて14日間の強制摂食試験を行った(n=6)。食害の有意差についてはStudentのT-testで検定を行った。38研究トピックスシロアリの食害促進物質の探索緒言 木質構造物を良好な状態で長期間使用するためには, 木材を劣化から守ることが必要である。シロアリの食害は木材を劣化させる大きな原因の一つであり, 木質構造物をシロアリ食害から防除することは大変重要である。シロアリ防除では, 薬剤処理等によりシロアリの食害を阻害する技術が重要であるが, これと同じようにシロアリの食害を促進する技術も「ベイト法」などの防除法へ適用できる。 シロアリの主な食物である木材は栄養学的にみると, 約99%が炭水化物であり1), 非常に栄養素の偏った食物源である。既報2)にもある通り, シロアリの虫体と木材の組成には大きく異なる成分が複数みられ, このことから, シロアリには常にいくつかの栄養素が欠乏していると推定される。このことから, 欠乏している栄養素を補給することで摂食を促進できるのではないかと考えた。 これまでの筆者らの研究で, 野外試験においてリン酸カルシウムを含有する化合物にシロアリ食害を増大させる傾向がある事が見出されていたが3), 野外試験は気候や設置場所などの影響が大きく, 明確な結論には至らなかった。 そこで, 本研究ではろ紙小試験体を用いた室内での試験を行い, リンをはじめとするいくつかの栄養素をシロアリに補給することで, 摂食促進効果がみられるかどうかを検証した。試験方法供試虫:イエシロアリ(Coptotermes formosanus Shiraki)を対象とし, 京都大学生存圏研究所の生活・森林圏シミュレーションフィールド(LSF)の野生個体および居住圏劣化生物飼育棟(DOL)で飼育された個体を用いた。選択摂食試験:4L容のコンテナボックスの中に洗浄・滅菌した海砂130gを敷き, 脱イオン水35 mlを加えた。これに食害促進処理(表1)を施したろ紙(20 mm角, 結果選択摂食試験:選択摂食試験の結果, 無処理では食害量が平均49 mgであったのに対し, 最も食害の大きかったリン酸水素二カリウム処理(以下「DKP」と略す)では123 mgと約2.5倍になり0.01 > pで有意差が見られた。DKP以外のリン化合物による処理でも食害量の増加は見られたものの, 今回の検定では有意差はなかった。この他の成分を添加したものについても有意差は見られなかった。選択摂食試験では複数のリン化合物を用いたため, 摂食の選好性が分散した可能性があるが, そのような条件下でもDKPに有意差が見られたことから, イエシロアリのDKPに対する選好性が期待できる。一方, これまでに選好性が報告されているL-グルタミン酸5)については食害量の増加が見られなかった。強制摂食試験:強制摂食試験の結果, DKPと脱イオン水処理(対照区)の食害量, 死虫率, 虫体重量の変化に
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