しろありNo.177
47/61

Research Topics宮崎県木材利用技術センター 中谷  誠用いた。試験はファンガスセラーに試験体を設置後9ヶ月目, 22ヶ月目, 28ヶ月目, 36ヶ月目, 46ヶ月目に超音波伝播速度を測定した。また, 各測定時期において試験体の一部をファンガスセラーから取り出し, 気乾状態になるまで室内で養生した後, 強度試験により支圧強度を測定した2)。写真1 ファンガスセラーに設置した試験体41研究トピックス生物劣化を受けたドリフトピン接合部の強度性能と超音波伝播速度の関係1. 研究背景と目的 学校校舎や庁舎などの中・大規模公共建築物を木造により建築する事例が増加している。しかし, これらの木造建築物を長期間安全に利用するための研究はほとんど取り組まれていない。特に, 生物劣化が接合強度へ及ぼす影響に関する研究は, 森などによる釘のせん断及び引張性能へのシロアリ被害に関する研究1)などがあるが, その数は多くない。 本研究では非破壊による劣化診断の可能性を検討するため, 中・大規模木造建築物に広く用いられているドリフトピン接合において, その耐力を決定する重要な因子のひとつであるドリフトピンが木材にめり込む支圧強度について, 腐朽菌により生物劣化を生じた接合部の支圧強度と超音波伝播速度の関係を明らかにする。本研究により, 非破壊による劣化診断機器の測定値と接合部の残存強度の関係が明らかになれば, 建物を安全に長期間使用するための指標になると考える。2. 実験方法 本試験では, 京都大学生存圏研究所の共同利用施設であるファンガスセラーを用い, 接合部試験体を強制的に生物劣化させた。ファンガスセラーには, 腐朽菌として培養したキチリメンタケ(Gloeophyllum trabeum)を用いた。試験体は, 厚さ30 mm, 幅120 mm, 長さ168 mmの板状の材料とし, 樹種はオウシュウアカマツとした。ドリフトピンは直径12 mmを用い, 試験体中央部に設けた同寸の穴に打ち込んだ。試験条件はドリフトピンに加わる荷重方向を繊維方向に対して平行方向と直交方向の2条件とした。試験体はドリフトピンが打ち込まれた位置より24 mm下部までをファンガスセラー内部の土中に埋め込み設置することで, 接合部付近に生物劣化を発生させた。写真1にファンガスセラーに設置した試験体, 図1に試験体の概要と超音波伝播速度の測定位置を示す。試験体数は, 各条件42体, 合計84体とした。超音波伝播速度の測定は, Dr.wood(株式会社秋田エスエスケイ社製)を3. 実験結果および考察 写真2にファンガスセラーに設置後36ヶ月目の試験体を示す。試験体には土に埋められていた部分からドリフトピン位置付近にかけて生物劣化による断面欠損が確認できた。図2にファンガスセラーへの設置期間と超音波伝播速度の初期値に対する変化率の関係を示す。設置期間が長くなるほど超音波伝播速度は遅くなる傾向を示し, 設置後28ヶ月目からは急激に低下する傾向が見られた。図3に超音波伝播速度(両試験条件とも図1位置③の測定値)と支圧強度の関係を示す。繊維平行方向は, 超音波伝播速度が遅いほど支圧強度は低い傾向が見られた。繊維直交方向においても, 超音波伝播速度が1000 m/s以下では強度試験を実施出来ないほど生物劣化が進んだ試験体が見られるなど, 超音波伝播速度が遅いほど支圧強度は低い関係が示唆された。4. まとめ ドリフトピン接合について, 生物劣化が進行することで超音波伝播速度が遅くなり, 超音波伝播速度が遅

元のページ  ../index.html#47

このブックを見る