しろありNo.177
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Research Topicsアリが真に食べた量とは異なるためである。そこで, シロアリの食餌量をシロアリが排出した糞数によって定量化することを試みた。この量はシロアリの摂食や消化活動を反映する量とも言えることから, 「摂食排出活動量」と定義した。野外で作成した疑似丸太に由来する腐朽木材と腐朽ろ紙, 及び, その対照としての未腐朽木材と未腐朽ろ紙を, それぞれ餌としてオオシロアリに与え(10頭/容器, 3反復), シロアリの活動が活発な25度にて, 摂食排出活動量とシロアリの生存率を, 3週間毎日計測した。図1  シロアリ活性の高い野外試験地 サンプル設置直後の状況。年月とともに落ち葉に埋もれてサンプルの姿は見えなくなる。49熊本高等専門学校・拠点化プロジェクト系/生物化学システム工学科 木原久美子研究トピックス均一な腐朽を可能とする疑似丸太を用いたシロアリの摂食排出活動量の定量化1. はじめに シロアリの木材への侵入部位は侵入していない部位と比べてどのような特徴があるのだろうか?という問いに対し, 複数種のシロアリや異なる腐朽段階にある木材を組み合わせて相互の関係性を解明する方法が考えられる。しかし木材は構造が複雑であるために, 野外でその腐朽は局所的に起こり全体が同時に腐朽するわけではない。木材では, 均一な腐朽を制御することは難しいということは, シロアリと腐朽の相互作用を研究する上での障壁のひとつである。特定の腐朽菌を接種し木材全体に蔓延するまで長期培養する, 粉化した木材を腐朽するといった, 木材の均一な腐朽の方法が考えられるものの, 一定サイズの構造を維持した木材に, 複数菌種や物理化学的な効果による複合的な劣化が起こる自然界の腐朽と比較すると, 限定的な腐朽とならざるを得ない。そこで本研究では, 一定サイズの構造を維持した木材等を均一に腐朽させる試みとして, モデル丸太系を野外に設置して複数菌種による複合的な腐朽状態を創り出し, その腐朽サンプルを回収後にシロアリに供与する事で, シロアリの食餌量や生存率を定量化することを試みた。2. 実験方法2. 1 疑似丸太の設置と腐朽サンプルの取得 ろ紙や薄い木材(経木)を円形に切り, これを重ねて束ねて円柱状にした「疑似丸太」サンプルを準備した。シロアリの活動が活発な試験区内(鹿児島県日置市吹上町吹上浜)のクロマツ林床にこれを設置し(図1), 木材腐朽菌等による複合的な腐朽や, シロアリ等の昆虫による侵入を受けるようにして疑似丸太サンプルを腐朽・劣化させた。回収した疑似丸太サンプルは観察後, 室内にて十分乾燥してから次の実験に供与した。2. 2 シロアリの食餌量と生存率の定量化 シロアリが餌を食べた量を正確に見積もるには, 与えた餌の減少量を測る方法は適さない。シロアリは餌を食べずに削るだけの場合があり, 餌の減少量はシロ3. 結果と考察3. 1 疑似丸太の腐朽状態 ろ紙や木材で作成した疑似丸太は, 夏季を1回含む腐朽期間では腐朽が進んでいないように見受けられたが, 夏季を2回含む腐朽期間では, ろ紙の形が無くなるほど分解されたり, 木材の春材部が黒や茶色に変色し菌類や昆虫の侵入を受けた状態になったりするなど, 腐朽の進行を確認出来た。同程度の期間, 丸太を厚さ5cm前後程度の輪切りにした木材ディスクを同じ場所に置いても, 表面的で局所的かつ不均一な腐朽が起こる程度であった(図2)が1), これと比べて, 疑似丸

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