しろありNo.178
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Reports「臺灣日治時期建築家栗山俊一之研究」8)がある。 しかしながら, これらの研究でも「防蟻コンクリート」の技術的効果や日本内地等との比較を通した歴史的位置づけ, さらには同コンクリート採用後に行われた防蟻のための実験の詳細等については未だ明らかにされていない点が少なくないと考える。 以上のことを踏まえて本稿では日本統治時代の台湾における近代建築に用いられた「防蟻コンクリート」を始めとしたシロアリ対策のための研究・工事の概要や導入の経緯, さらには同対策において大きな役割を担った技術者の功績について明らかにし, 同工法や対策が日本統治下での近代建造物の建築に与えた影響を解明する。7常磐会学園大学 井上敏孝1. はじめに 本稿では戦前の台湾で採用されたシロアリ対策や防蟻工事に着目する。 1895年の下関条約によって日本が清から譲り受けた台湾は, 日本が敗戦する1945年までの間, 日本領の一部であり, 日本が台湾を統治していた50年余りの時期は日本統治時代と呼ばれている。この間, 台湾では鉄道・港湾・道路といった多くのインフラ建設が推進されることとなった。そうした中で, 建築の分野でも実験的な試みや新技術の導入等が積極的に進められていた。本稿で取り上げる「防蟻コンクリート」を始めとしたシロアリ対策は, 以上のような背景の元, 導入された先進技術・取り組みの1つであった。 しかしながら, これまで日本統治時代の台湾で「防蟻コンクリート」が採用されたことや, 防蟻対策のための研究や工事が行われていたことを指摘した研究は少ない。先行研究としては, 郭中端「日拠建築について」1), 西澤泰彦『日本植民地建築論』2), 西澤泰彦『日本の植民地建築―帝国に築かれたネットワーク』3)等があるが, いずれの研究も同コンクリートの概要を述べるに止まっている。なおかつ同コンクリートが台湾で採用された経緯や技術的特徴, さらには, 防蟻効果については「効果を発揮した」と述べられているに留まっており, その実態等については正確に明らかにされていない4)。 また, 台湾では, 戦前の台湾で実施された白蟻防禦のための対策についてまとめた黃俊銘『日治時期台灣白蟻災害防治研究的發展過程』5)や, 建築学的見地から, 戦前の台湾における白蟻研究及び対策をまとめることで「建築界における耐アリ木材の使用基準を提供する」とした林思玲・傅朝卿『臺灣日治時期建築防制白蟻研究成果探討―以大島正滿團隊與栗山俊一之研究為主―』6)及び林思玲『日本殖民台湾気候環境調適的経験』7)の研究がすでに発表されている。 加えて, 日本統治時代の台湾における建築物への防蟻研究に関わった建築家に関する研究としても許長鼎2. 日本統治時代台湾での家屋建築の特徴 日本統治時代以前, つまり清朝時代の台湾で見られた家屋建築の文化は, 中国大陸の福建省或いは広東省のものと大差のないものであった。清朝時代の家屋建築の大半は木造建築であり, 石やレンガは若干の寺廟で柱に用いられる程度であった9)。 その後, 日本統治時代となり, 台湾に建てられた建築は大きく3つの時期に分けることができる10)。 まず第1期は, 日本統治が始まった1895年~1907年頃までの時期を指す。同時代に建てられた代表的な建物としては台北医院等があった。さらには台湾銀行本店をはじめ民間の建物も少なくなかったが, その多くが木造の建物であった。しかしながら木造建築は台風による破損も多く, なかでもシロアリによる被害が深刻で, この時期に建てられた木造建築は10年程度で建て直される事例が少なくなかった。そのため, 同時期に建てられた建物で現存しているのは, 台北賓館等をはじめとした石造・煉瓦造りの建物のみである。 第2期は1907年~1910年代頃までの煉瓦造の全盛期時代を指す。同時期に煉瓦造が普及した背景には大きく3つの要因があった。 まず1点目は, この時期, 日本国内あるいは海外で報文日本統治時代台湾におけるシロアリ対策に関する一考察―「防蟻コンクリート」と栗山俊一技師の功績―

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