しろありNo.179
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報文Termite Journal 2023.1 No.17917図1 シロアリが餌場を探索する必要性がある場合餌や棲家がなくなる前に新しい環境に移動しなくてはならないが, シロアリは, どのように良い環境を見つけ, どうやって移動するのだろうか。1. 背景と目的 ヤマトシロアリReticulitermes speratusは, 日本の森林の広域に分布し, 腐朽木材中に集団で生活している。森林の木材だけでなく, 木造建造物にもシロアリは営巣するため, しばしば家屋を加害し, 身近な害虫として知られている。シロアリにとって棲家でも食料でもある木材は, シロアリ自身の活動によって, 時間とともに削り取られていくわけだが, それは同時にシロアリが棲家と食料を失うということでもある。従ってシロアリは, 一定の頻度で新たな棲家と食料を探す必要がある(図1)。食住に適した新しい木材を見つけられるかどうか, 見つけた場所に集団が移動できるかどうかは, 生存を維持するために, シロアリにとっては重要な問題である。 シロアリが新しい棲家と食料を見つけるためには, 安全な現在の棲家から外に出て, 外部の環境を探索することが必要である。しかし, 巣の外へ一歩踏み出せば, 常に様々な動物や昆虫に狙われる状況となる。シロアリには天敵が多く, シロアリを捕食する野生動物の哺乳類や鳥類に加え, 最も近くで最も強力な捕食者として地上を歩き回るクロアリなどの肉食昆虫もいる。それらの餌食にならずに, 新しい棲家や食料を見つけ出すためには, できるだけ素早く, 目的とする物や場所を見つけることが望ましいと想像される。そして, シロアリ集団の全個体が, 新しい目的地に移動するのにかかる時間も短いほうが, 移動時に捕食者による被害を受けるリスクが下がると推測される。 いったいヤマトシロアリの集団は, どのようなステップを経て目的に合う棲家や食料の木材を見つけるのだろうか?また, 見つけた場所へヤマトシロアリの集団はどのように移動するのだろうか?その行程の経路の複雑さの影響を受けるのだろうか? この問いに対し, 実際の木造建造物の内部や森林の材木の中や土壌内において, シロアリの各個体の行動をつぶさに観察することは難しく現実的ではない。ヤマトシロアリが目につきやすい地表を歩くことは稀で, 大抵は木材や土壌など, 何らかの構造物中の身を隠すことのできる場所にて活動していること, それらの構造物を破壊せねば内部のシロアリを観察できないこと, しかし破壊すればシロアリの自然な活動を妨害してしまうこと, 非破壊的な観察方法も実行できる範囲や場所も限られていることなどがその理由である。 また, 研究期間中(2021年4月〜2022年8月)の, 新型コロナ感染症の流行(第4波〜第7波)や, これへの感染予防対策(例えば会議や授業のオンライン化や出勤停止/在宅勤務や対面活動の人数制限など)によって行動が制限される状況では, 研究室外でのシロアリの行動観察を, 計画を立ててすすめることもままならない状況であった。コロナ感染症拡大防止への観点から, 研究の遂行行程において密を避け, 地域をまたいだ遠方への移動をなるべくせずに, 突発的なクラスター発生や緊急事態宣言等への対策をとれる方法で研究をすすめることをベースとする必要があった。 そこで, コロナ禍の中でも研究を推進することが可能であるように, 本研究ではモデル観察系を用い, ヤマトシロアリの職蟻の集団の行動学的解析によってこれらの問いを明らかにすることを目的とした。屋外で建造物間のシロアリの行き来や, 丸太材や建築用材間のシロアリの行き来を観察することは難しくとも, 新熊本高等専門学校 生産システム工学系/生物化学システム工学科 木原久美子Reports「シロアリ集団の餌探索に関する行動学的解析」についてAnalysis of termite foraging community behavior based on individual behavior

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