2.1 行動場の作成1818Termite Journal 2023.1 No.179を結ぶ接続空間の複雑度が小さかったり大きかったりすると置き換えて考えた。実際の実験系ではここに複雑度の異なる迷路を適用した。図2 モデル観察系の構造のコンセプト自然界の経路は, 餌が枯渇した空間と餌が潤沢にある空間の間たな棲家や餌と古い棲家や餌の間をシロアリが行き来する状況をモデル化した観察系であれば, 系内でのシロアリの挙動の観測から, 実環境での挙動を類推することができると考えた。 もしヤマトシロアリがどのように餌を探索し定着するのかを行動学的に解明できれば, シロアリが木造建築物や建築資材へ食害を起こす前段階で, シロアリの行動傾向に基づいた事前の対策を打つ効果的なタイミングや方法を新たに考案したり既存の方法を適切に提供したりすることが可能となる。2. 方法 ヤマトシロアリを対象に, モデル観察系を用いて餌探索に関する集団行動を観測し, シロアリの行動学的なステップを解明することを目的として以下の方法により実験系を構築し解析を行った。 シロアリが餌を探索する自然界の現場では, 古木から新木へ障壁なく移動できる場合は多くはなく, 両木の間を結ぶ枝葉が横たわっていたり, 時にはそういったものが積み重なって経路を複雑にしたりしていたり, 植物の根や茎が絡み合う土中を通らねば到達できない場合がある。そのためシロアリは, 自分が作った蟻道以外の構造, 例えば, 竹や笹などの植物の中空の茎や, 木材だけでなく人工物の割れ目など, 道として利用できそうな構造を効果的に利用して移動したりする。ただし, 使いやすい自然の道が, 新木や餌場などの目的地まで続いていることは稀で, 大抵は, いくつもの茎や葉や人工物が折り重なっている状況の中から, 目的地への経路を見つけ出して, シロアリは移動している。 自然界の地形の状況を完全に再現し, シロアリが3次元の構造の中から3次元的な経路を選んで進む様子を観察することは, 複雑すぎて不可能である。そこで, この複雑な地形の状況を簡素化して模倣し表現する方法として迷路を採用した。シロアリが利用する経路上にこれを設置し, シロアリに使わせるものである。シロアリが目的地へ抜け出すためには, この単純ではない障壁を, 超えなくてはならない。 迷路を利用したモデル観察系は, できる限りシンプルな構成とした。まず, 餌の枯渇した状況(A)と餌が潤沢にある状況(B)という2つの対比した環境を仮定した。先述したように, 自然環境における空間(A)と空間(B)の間は, 通常は直線的に両空間を行き来することはできないような障壁が存在する事がほとんどである。そこで, そのふたつの空間を結ぶ空間(C)に障壁を設定した。この連続する3つの空間の関係を図に記した(図2)。 空間(C)は, 常になにも障壁のないただの空間とすることもできる一方で, 一定の障壁を設置することによって, シロアリにとって空間(A)と空間(B)の往来が容易ではない, 積極的な探索行動を必要とする状態を構築することもできる。図に示したように, 複雑度が異なる障壁レベルを人為的に設定することが可能である。 本研究では, 3段階の障壁レベルを設定した。複雑度がゼロのレベル, 複雑度が低いレベル, 複雑度が高いレベルと分類した。複雑度がゼロのレベルでは, 接続空間(C)には何も置かない。複雑度が低いレベルと高いレベルでは, それぞれサイズの小さい迷路と, サイズの大きい迷路を置いた。サイズの小さい迷路は一辺6マスの正方迷路, サイズの大きい迷路は一辺12マ
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