2.3 餌木の準備 上述のように設定したモデル観察系では, 餌枯渇空間(A)から餌潤沢空間(B)へのシロアリの移動を観察しようとするものであるから, シロアリが向かう先にはシロアリにとって好ましいと感じる餌の存在が必要である。一般にシロアリが好む餌は堅すぎず, ある程度腐朽し, 水分を含んだものが多い。さらには, ヤマトシロアリではキチリメンタケによく誘引されるように, 腐朽菌がどのような種類であるかも餌木への誘引条件のひとつでもある。本研究でも腐朽菌の種類や腐朽度合いを変えた餌木を用いることも考えられたが, 研究期間内にこれを試すことは難しかったため, 餌と腐朽菌の状態の調整は今後の課題とした。本研究では, すでにシロアリが巣や餌として利用し, 現在生息している木材の一部を餌木として用いることとした。この餌木は餌潤沢空間である目的地(B)の空間に設置し, 餌枯渇空間である出発地(A)からここへ至るシロアリの挙動を解析した。2.4 行動の記録 ヤマトシロアリは通常, 光の当たらない暗所で活動している。しかも, ヤマトシロアリは目を持たなくとも、紫外光や可視光といった光に応答して行動することが知られている1)。このことから, 本モデル観察系でも光の存在は行動に影響を与える可能性が考えられた。そこで本研究では、モデル観察系をこれらの光から遮蔽した暗所において, 赤外線カメラを用いてシロアリの行動を動画撮影して観察した。行動の記録は同2.2 ヤマトシロアリの職蟻の取得Termite Journal 2023.1 No.1791919図3 熊本高専構内でのサンプリングサクラの木の枯れ枝, 及び, 地面に落下していた枝の倒木からシロアリを採取した。図4 ヤマトシロアリヤマトシロアリの職蟻だけを集めて実験に用いた。背景はひとマス3mm。スの正方迷路を用いた。サイズの大きい迷路はサイズの小さい迷路と比べて, 一辺が2倍で面積は4倍である。複雑度が小さい障壁として異なる4タイプの迷路を, 複雑度が大きい障壁として異なる4タイプの迷路を用いた。 シロアリの集団は, 大きく分けて, 女王, 王, 兵蟻, 職蟻, 幼虫, 卵といった, 複数のカーストからなっている。本研究ではこのうち, シロアリのカーストの中でも最も個体数が多く, 木材の削り取りに対して直接的に行動し, 餌探索行動に深く関与していると考えられる職蟻に着目した。 ヤマトシロアリのコロニーは, 熊本高等専門学校の学内の桜の木に営巣していたコロニーや(図3), 鹿児島県日置市の吹上浜海岸林付近から採取したコロニーを, 営巣木とともに研究室内のコンテナに入れ, 適切な湿り気を加えながら25℃に保って維持した。ここから, 職蟻のみを分けとって, 実験に用いた。職蟻は, 頭部先端から尾部先端まで, およそ5mmのほぼ同じ大きさのものを選出した(図4) 。 本モデル観察系に用いたヤマトシロアリの集団サイズは集団としてはごく小規模の10頭とした。個体識別しながら集団行動の観測を容易に行うためである。
元のページ ../index.html#23