2.5 行動の解析fukienensisでは職蟻の齢に応じて坑道採掘時の役割が異なることが知られているように2), ヤマトシロアリでも職蟻個体による役割分担がある可能性も高い。ヤマ3.1 出発地から目的地へシロアリは迷路を超えて到2020Termite Journal 2023.1 No.179達しなかった個体数を薄灰色で示した。図5 目的地に到達したシロアリの数複雑度が小さい迷路はA〜Dの4タイプ, 各1回ずつ, 複雑度が大きい迷路はA〜Dの4タイプ, 各4〜7回ずつ, 合計23回の実験を行った。この時, 目的地に到達した個体数を濃灰色, 到団に, 複数の迷路を複数の回数, 解かせた様子を, シロアリが出発地(A)から目的地(B)に到達できたかどうかという視点で解析した。 空間(C)に, なにも障壁を置かず, ただの空間とした場合には, シロアリはほとんど出発地(A)から動くことはなく, 集団が目的地(B)に移動することはなかった。 次に空間(C)に迷路を設置してシロアリの行動を観察した。迷路の形による結果の偏りをなくすため, 複雑度が小さい障壁として, 異なる4種類のタイプの迷路を用い, それぞれ1回ずつシロアリ集団の行動を観察したところ, どのタイプの迷路でもシロアリは出発地から目的地に到達した。さらに複雑度が大きい障壁として, 異なる4種類のタイプの迷路を用意し, それぞれ4〜7回ずつシロアリの行動を解析したところ, どのタイプの迷路でもシロアリは出発地から目的地に到達した。 棒グラフは, ゴールできたシロアリの個体数と, ゴールできなかったシロアリの個体数を表している(図5)。総計23回の実験のうち, 16回(70%)は9割以上のシロアリが, 11回(48%)は10頭の全てのシロアリが, 目的地(B)へ到達した。目的地(B)に到達できなかったシロアリは, 迷路を解けなかったからではなく, 迷路の外側に脱走してしまったものであった。脱走しなかったシロアリは, 全ての個体が出発地(A)から目的地(B)へ移動した。迷路の一部構造をより精密に改善し隙間をなくした系を確立し, 改善した観察系では, じ条件で複数回行った。 得られた動画データをもとに解析をおこなった。シロアリがどのように行動をするのか, どの個体がいつどの位置にいるのかを記録した。特に, 集団のうち何頭が目的地(B)に到達できたのかをカウントし, グラフにまとめた。また, シロアリ集団全員が目的地(B)に到達するまでの時間と, さらに, 各個体が目的地(B)に到達した時刻を記録した。また, 各個体が出発地(A)から目的地(B)に至るまでにかかった時間を個体別に計測した。3. 結果と考察 職蟻は同じカーストに属し, 一見すると, どの個体も同じ姿形であることから, 行動も同じであるように思える。実際にはヤマトシロアリと近縁のReticulitermes トシロアリは身近なシロアリであるにも関わらず, 意外にもその職蟻の行動学的な研究は, 近年多くは行われていない。シロアリの職蟻の行動を解析することは, 5mm以下の個体について個体識別を行わなくてはならない点で, 実験系の確立や解析そのものに困難を伴うからかもしれない。本研究では, この小さな個体を識別し, 個体ごとの行動を追うことによって職蟻中の役割分担を解明することを試みた。 モデル観察系は, 外部から容易にシロアリの挙動を確認できる形態とし, 空間内でヤマトシロアリ職蟻集団が示す行動特性を, 集団として, また, 各個体として, 動きの解析をおこなった。空間(C)には, なにも障壁のないただの空間だけではなく, 積極的な探索行動を必要とする, 複雑度が異なる障壁を設置した。出発地(A)から目的地(B)へ障壁(C)を越えてシロアリ集団が到達できるのかどうか, また到達できる場合の集団行動を動画撮影によって観察し, その特徴を抽出した。達できるのか? 複雑な自然界の地形をモデル化した系として迷路を用いたが, そもそもシロアリは出発地から目的地へと迷路を解けるのだろうか。迷路を解ける個体もいれば解けない個体もいるのだろうか。そこで, シロアリ集
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