しろありNo.179
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Termite Journal 2023.1 No.179図8 各個体が出発地から目的地に至るまでにかかった時間複雑度の小さい迷路において, 出発地を出て目的地に初めて到達するのにかかった時間を, 目的地に到着した順位の順番に並べて示した。 図中の棒グラフ中に, 矢印と数字で目的地(B)に到達した順に個体の番号を記し, 集団中の各個体の到達状況を図示して示した(図6)。もし各個体が一斉に目的地(B)へ到着するのであれば, その矢印の間隔は密に, 逆にばらばらに到着するのであれば疎になるはずである。結果から, 全てのシロアリ個体が一斉に同時に目的地(B)に到達するわけではなく, 個体ごとに目的地に到達した時刻にはばらつきがあることがわかった。 またこの図から, 集団中の個体がいつも等間隔にばらついて目的地(B)に到達しているわけではなく, 場合によって密な小集団を形成して目的地(B)に到達しているようにも見える。特に, 後半ほどそのような傾向があるようにも見えることから, 集団構成員を, 目的地(B)に到達する順位の上位と下位のふたつの集団に分けて, それぞれの集団が目的地(B)に到達するのにかかった時間を調べた。たとえば10頭の集団全員が目的地(B)に移動した試行の場合には, 上位5頭と下位5頭の集団に分け, 上位の1位の個体が目的地するまでの時間と, 下位の6位の個体が目的地(B)に到達してから10位の個体が目的地(B)に到達するまでの時間を比較しようとするものである。図中には, 集団の個体数の前半分が目的地(B)に到達するまでの時間と, さらに集団の個体数の後ろ半分が目的地この色付けを比較すると, 前者よりも後者の方が, 時間が短いことが多い。このことは, 集団のうちでも後半に移動する個体たちは, 前半に移動する個体たちよりも, 次々に連続して目的地(B)に到達している傾向があるということである。この傾向は, 前半に移動する個体たちにはあまりみられない。 つまり, 少数からなるシロアリ集団の移動では, ①個体がそれぞれにばらばらに目的地へ移動するパターンや, ③小集団ごとに目的地へ移動するパターンが行われていることがわかった。 目的地に到着するのが遅い(到着順位が大きい)個体ほど, その個体よりも前にたくさんのシロアリが障壁空間(C)を歩いているはずである。このことから, 前に歩いた個体が付けた道標フェロモンをたどれば, 時間をかけずに早く目的地(B)へたどり着けるのではないかと考えられた。言い換えれば, 目的地に到着するのが遅い(到着順位が大きい)個体ほど, 出発地(A)を出てから, 目的地(B)に到達するまでの時間が短い可能性が考えられた。 そこで実際に, 各個体が出発地(A)を出てから, 目的地(B)に到達するまでの時間を調べた。ここでは, 複雑度が小さい迷路の結果の例を図に記した(図8)。目的地に到着した順位ごとに, 初めて目的地(B)に到達した時に出発地(A)からどのくらいの時間がかかったのかを示した。上位3位までの個体は, 平均44秒かかっているのに対し, 4位以降の個体は, 平均73秒と1.5倍以上の時間がかかっていた。この結果から, 目的地に到着するのが遅い(到着順位が大きい)個体ほど, 時間をかけずに早く出発地(A)から目的地(B)へ到達できるわけではないことがわかった。 このことは, 同一カーストから構成される小規模なシロアリ集団であっても, 迷路解決にかかる時間という点で個体ごとにばらつきがあること, また, 目的地(B)に到達する順位はその個体差を反映している可能性があることを示している。順位が小さい個体は, 順位が大きい個体よりも行動的なのかもしれない。3.5 各個体の迷路解決における平均歩行速度 目的地に到着する順位が上位であると, 出発地(A)を出てから, 目的地(B)に到達するまでの時間が短い傾向があり, 逆に下位であると長い傾向があった。下位の個体で時間がかかっているのは, 正しい経路ではなく間違った道を余分に歩いているからなのだろうか, それとも正しい道をゆっくり歩いているからなのであろうか。これを確認するためには, 各個体の歩行速度(距離/時間)を求めれば良い。そこで, 各個体が(B)に到達してから5位の個体が目的地(B)に到達(B)に到達するまでの時間を, 異なる色でマークした。3.4 各個体が迷路解決にかかる時間2222

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