しろありNo.179
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Termite Journal 2023.1 No.1793333写真11 会場近くのフェンウェイ・パークシロアリが衰退すると予想したが, それは誤りであった。現在, 侵略的(外来)シロアリ種は28種あり, 多くはグローバル化による人流, 物流によりもたらされた。外来種という視点でもシロアリは影響が大きい。ほぼ100年前に害虫駆除会社はTerminix(オルトクロルベンゼン, 有毒な溶剤・塩の混合物)というソリューションを開発, E.L.Bruce Companyが製造し, 10平方フィートあたり1ガロン処理で5年間効力保証をした。その後, 薬剤処理ではなくシロアリ侵入防除を考慮した建築工法で対処すると考えられた。しかしながら, 工法による対処ではなく, DDTやクロルデン, ディルドリンなど多くの薬剤が20世紀前半に開発され使用されることになった。当時, クロルデン1%濃度製品であったが, 試験ではその1/8の濃度(0.125%)でも21年間シロアリの進入を100%防ぐ効果が確認された。現在, 薬剤の進歩により薬剤の必要量は大きく減少した。以前ならば, 73%クロルデン剤であれば, 1ガロンあたり8lbs使用していたが, 現在は9.1%フィプロニル剤であれば, 1ガロンあたり0.8lbsで良い。 また, ベイトは有効な手段であるが, 設置のタイミングが最も重要である。建築中の建物においてベイト施工前にシロアリが侵入していたケースを紹介(2018年に着工, 2019年7月にベイト施工, 2019年8月引き渡し)。フロリダ大の研究では職蟻の5%がキチン合成阻害剤(CSI)ベイトを喫食すればコロニーを駆除するには十分量である。コロニー内で, 巣の給餌を担っている職蟻の割合は2.5%から5%程度である可能性が高く, 以前よりもベイト消費量の最少閾値は低くなっている。 また, ホウ酸系薬剤について, カリフォルニア州ではReticulitermes属にしか評価されていないが, 他のシロアリに対しても木部処理として使用が認められている。追加施工としては有益な面があるが, 他州では, 単独使用は認められず注意が必要である。その他, ステンレスメッシュはフロリダ, ミシシッピ, サウスカロライナなどUSFS(アメリカ合衆国森林局)の野外試験場で5年間100%の有効性を示した。他の殺虫剤ではなかなか100%有効と主張できる薬剤が無い中で, 優れた結果である。物理バリアとして無機担体による粒剤など物理バリアも知られているが, コスト面と製品の入手性が低いことから, 採用率は高くない。5. 終わりに エデュケーションセッションについて紹介したが, 演題・要旨と実際の講演内容が一致しないことは通常で, 聞くまで内容が分らない事が多く難しい。TCO以外にも多くのセッションがあり, 基礎に近いものや, 学生による講演も用意されている。アメリカでは殺虫剤を扱うTCOを含むPMPは各州のライセンス(免許)制で, その作業分野なども細かく制限されている。この為, 自身の分野外では初めてのことも多く, 初心者でも興味を持ちやすいように様々なレベルでの話題を提供しているのであろうと思われる。 国によりシロアリ防除剤の登録制度や, シロアリ種の違い, 建築工法の違いはあるが, 外周処理や断熱工法など共通の事象も多い。日本国外では薬剤の開発, 登録に規制当局や大学機関が関与し, また企業も生物学系の博士号取得者が多く活躍し, 経済的にも学識関係者が関与する場面が多い。このような状況もあり, 生物系の若い研究者が殺虫剤やPMP業界のいろいろな場面で活躍していることを実感する。木材保存, シロアリ防除において, 日本が先行する分野も多いが, 諸外国においてどのような課題があり, 議論, 解決されているかを調査し, TCO業界として取り入れられる事が無いかを検討することも一つの方法と思われる。 今後, 国際的な情報交換が進み, 日本のTCO業界のますますの発展につながることを期待したい。筆者でお手伝い出来ることがあれば, お声がけ頂ければと思う。 次回は, 2023年10月17 ~ 20日までハワイで開催される予定である。日本からは米国本土より近く, 費用的にも参加しやすい機会かもしれない。 今回は, 1ドル150円台と最も円安が進み, またインフレから, ラーメン餃子セット4500円, ホテル一泊うん万円と, Bostonという街の物価が高いという事もあったが, 過去5年と比べ体感で全ての価格が2倍ほどになっていることに驚愕した。来年は, 為替や世界情勢が落ち着き, 皆さんが安心して参加できる状況にあることを祈り, 筆を置く。

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