しろありNo.179
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(1)生物検定による同胞認識行動の観察 イエシロアリおよびヤマトシロアリの職蟻および兵蟻を使用し生物検定を行うことで, 同種同コロニー, 同種異コロニー, 異種における同胞認識行動を確認した。シャーレの上に湿らせたろ紙を一枚敷き, その上に直径12mmのガラス円筒を置いてこれをアリーナとした。アリーナに検定個体としてイエシロアリまたはヤマトシロアリ兵蟻を1頭導入した。5分間静置後, 対象個体として同種同コロニー, 同種異コロニーまたは異種(イエシロアリまたはヤマトシロアリ)の職蟻を1頭導入し, 導入後5分間の検定個体の敵対行動の有無を記録した。対象個体に向かって3秒以上大顎を開いた場合, 弱い敵対行動である威嚇行動を示したとみなし, 対象個体を噛みつこうとする行動をとった場Termite Journal 2023.1 No.179maps.gsi.go.jp/)をもとに加工して作成図1 イエシロアリの採集地点図2 光市におけるイエシロアリの採集地点図は「地理院地図(電子国土ウェブ)」(国土地理院 https://formosanus (以下イエシロアリ)を用いて体表抽出物(GC)を用いた体表炭化水素分析, さらにガスクロマGC-EADを用いたシロアリについての先行研究では性Pachycondyla inversaの体表炭化水素に含まれる3,11-diMeC27に対する触角電位応答を確認し, この化22コロニー間では体表炭化水素が同胞認識キューとして機能しているのかについて研究者間で一致した結論に至っておらず, 種によって同胞認識行動の程度に違いがある可能性も考えられる19)。このことからシロアリの同胞認識メカニズムを解明するためには, 異種および異コロニーそれぞれについて同胞認識行動の鍵となる化学物質を明らかにする必要がある。 本研究では同胞認識行動に化学的キューが関与する直接的な証拠を明らかにするために, 日本に広く分布するR. speratus (以下ヤマトシロアリ)およびC. を用いた生物検定およびガスクロマトグラフィー トグラフィー触角電位測定装置(GC-EAD)を用いた異種および異コロニー間の触角電位応答を分析した。フェロモンや道しるべフェロモンに対する触角電位応答についての報告がいくつかあるが20, 21, 22, 23), 同胞認識行動に関与する体表炭化水素に関してはまだ調べられていない。D'Ettorre et al.(2004)においてアリ合物が女王シグナルである可能性を支持していることから24), シロアリにおいても不揮発性である体表炭化水素を用いた分析に使用できる可能性はある。 以上の実験を通して, 異種および異コロニー間の敵対行動, 体表炭化水素組成および体表炭化水素に対する触角電位応答を調べることにより, 体表炭化水素が非巣仲間間の同胞認識行動を引き起こすキューとして機能しているのかについて探求し, シロアリの同胞認識メカニズムの解明を試みた。2. 材料および方法供試虫 2021~2022年に山口県内で採集したイエシロアリおよびヤマトシロアリを加害された朽木と一緒にプラスチックケースに入れ, 25℃の実験室内で飼育したものを実験に用いた。 異コロニーの生物検定には光市4地点と山口市1地点のイエシロアリコロニーを用いた(図1)。光市のコロニーは川を挟んで300~1000m離れた地点を異コロニーとして検定に用いた(図2)。

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