123456789Termite Journal 2023.1 No.179(3) GCを用いた同種異コロニー間の体表炭化水素組成比の比較 同種異コロニーに関して, 山口市および光市の2地域のイエシロアリコロニーの体表炭化水素をGC分析し, Chouvenc and Su (2017)を参考にピークの成分を同定した18)。得られたデータをもとに主成分分析を行ったところ, これら2地域のコロニーは体表炭化水素組成比で識別可能であった(表2, 図9)。そこで, これらの組成比を地域別に比較するとGC-EADで反応のあった体表炭化水素のうち2成分の組成比が光市と山口市の間で有意に異なることが分かった。PC1PC20.2500.051-0.2670.2660.230-0.2030.2150.4630.2490.164-0.2720.2440.284-0.1850.271-0.128-0.2870.1400.257-0.3210.2450.2520.2280.330-0.133-0.3430.274-0.148-0.265-0.121-0.232-0.29171.7410.914. 考察 本研究では実験室内での生物検定とGCおよびGC-EADを用いた体表炭化水素分析を組み合わせることにより非巣仲間間の同胞認識を引き起こす要因としての体表炭化水素の重要性を探るためのアプローチを行った。 異種間の同胞認識行動に関しては, 生物検定においてヤマトシロアリとイエシロアリのどちらの種もお互いに100%近い高い敵対行動率を示したが, イエシロアリ兵蟻の異種に対する敵対行動率は異種の体表炭化水素を除去することで有意に減少した。さらに異種間のGC-EAD分析において, 複数の体表炭化水素のピークで触角電位応答が確認できたことから, 異種間の噛みつき行動および威嚇行動を誘発する同胞認識キューとして体表炭化水素が関与している可能性を支持する結果が得られたといえる。 同種異コロニー間の同胞認識行動に関しては, 光市のイエシロアリコロニーには山口市のイエシロアリコロニーに対して敵対行動を示すコロニーがあったためこれら2地域の体表炭化水素組成をGC分析により比較したところ, 2地域は体表炭化水素組成比で明確に区別することができ, GC-EAD分析においても組成比に違いの見られた一部の体表炭化水素ピークで触角電位応答が確認できたことから, 体表炭化水素がイエシロアリの異コロニー間の同胞認識行動に関与している可能性が示唆された。 今後, イエシロアリおよびヤマトシロアリの体表抽出物を用いてGC-MS分析を行い, 本研究で得られたEADピークにあたる体表炭化水素成分を同定しこれらのピークを明確にするとともに同定した化合物を使用した生物検定を行うことで, 同胞認識行動への体表炭化水素の関与の有無, 同胞認識キューの特定およびその閾値を明らかにすることを目指す。これらが明らかになることで, シロアリの同胞認識メカニズムの解明につながるだけでなく, シロアリ被害の分布拡大やコロニー維持メカニズムなどシロアリ防除に直結する研究への応用にも期待できる。謝辞 本研究を遂行するにあたりご協力いただいた国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の上原拓也博士に深く感謝を申し上げる。本研究は令和4年公益社団法人日本しろあり対策協会研究助成金の援助を受けて実施した。55表2 Chouvenc and Su(2017)を参考に同定した体表炭化水素と組成比の主成分分析結果peakCHCsnC2511-,13-meC252-meC253-meC25nC2611-,13-meC262-meC26nC2711-,13-meC27102-meC27113-meC2712nC281311-,13-meC28142-meC2815nC291611-,13-meC29寄与率図9 イエシロアリにおける体表炭化水素組成比の主成分分析結果
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